第18回金沢市民劇場賞の選考結果・経過報告 
第18回金沢市民劇場賞
     加藤健一事務所公演 
『 煙が目にしみる 』
 脚本:堤 泰之 演出:久世龍之介
 出演:加藤健一、一柳みる、坂口芳貞 ほか

2月16日、雨の日曜日、野々市事務所における約1日かけての選考委員会の席上、侃侃諤諤の大議論の末に、市民劇場賞は上に掲げたとおり「煙が目にしみる」に決定した。

今回、選考の対象となったのは平成14年2月の「肝っ玉おっ母とその子供たち」から12月の「菜の花らぷそでぃ」までの5公演。142サークルから提出された賞選考に関するアンケートを集計した数字は本報告の末尾に掲載の通りだが、集計表を参考にしながらもそこに現われない要素を加味して受賞作を決定するのが選考委員会の使命であり、実に熱心な議論が続いた。当日出席いただいた選考委員は定員20名中16名と80%の出席率で、特に今回はアンケート結果から見てもダントツな作品が無く、1作を除いた4作品の評価がかなり接近していて議論百出、結論が出るまでに相当の時間を要した。

選考の手順として先ず5作品のそれぞれについて選考委員一人ひとりからサークルを代表して感想や評価を述べていただき、参考データとして選考委員各人の個人的ランク付け(劇場賞、2位、3位)を提出してもらって選考論議をスターとさせることにした。

「肝っ玉おっ母とその子供たち」は栗原小巻の奮闘公演は評価されるも、肝っ玉おっ母のイメージに違和感を感じる人も多く、セリフの聞き取り難さ、訴えたいことが不明確、暗くて難解、などの理由で5作品の中では圧倒的に評価が低く、サークルアンケートによる投票でもそれは明確に数字に表れていた。

「煙が目にしみる」については加藤健一の個人的演技力もさることながら、脚本の発想のユニークさ、意外性などで実に面白く楽しかった、会場の雰囲気も良かった、劇場賞としてはやや軽いかなという評価もあったが総じて好評。「赤ひげ」は正統派の芝居らしい芝居で、舞台装置も良く安心して見られた。「リア王」については平幹二郎はさすがで申し分ないが、脇役がまたそれぞれ素晴らしく、迫力満点の素晴らしい芝居だった。 「菜の花らぷそでぃ」は多くの問題提起をしながらそれぞれに解決策の糸口が提示されつつ話が進んで、生活に密着した話題が身近に感じられ、笑いにも富んでいて面白く見られた。

ここからが選考経過だが、まず5作品からサークルアンケートで、もっとも評価が低かった「肝っ玉おっ母とその子供たち」を除外して残りの4作品からベスト2を選ぶ作業から入った。方法としては4作品をジャンルの似かよった2グループ(A.「赤ひげ」&「リア王」、B.「煙が目にしみる」&「菜の花らぷそでぃ」)に分け各グループから1作づつ選び、更に論議を重ねた上で2作による決選投票を行うことになり、Aグループからは大差で「赤ひげ」が、Bグループからは「煙が目にしみる」が選ばれた。

最終の決選投票は12:4で「煙が目にしみる」が圧倒的な支持を得、かくして第18回の市民劇場賞は「煙が目にしみる」に決定した。選考を始めてから5時間、午後3時少し前であった。

最後になりましたが、「煙が目にしみる」が今回の市民劇場賞に選ばれた理由をここにもう一度整理してみることにする。

  1. 誰にでも必ず訪れる「死後の世界」というテーマが大変身近なものであった。
  2. 家族愛、人間愛などについて考えさせられる点が多かった。
  3. 加藤健一のおばあちゃん役の演技が特に光っていた。
  4. 脚本家の着想のユニークさが素晴らしい。
  5. 5作品の中では公演時期が早い方なのに印象が大変強く残っている。
  6. 会場の雰囲気が特に良く、みんなが舞台に集中していた。
  7. あんな世界があったらいいなあ、という世界を描いてもらえた。 
                                         以 上

第18回金沢市民劇場賞アンケート結果(2003/02/16現在)

      年度末登録サ  提出サークル
金沢   280サークル  104サークル  37.1%
野々市 102サークル    38サークル  37.3%  平均37.2%
◆上段金沢・下段野々市。 ポイントは 劇場賞×5P 2位×3P 3位×1P

例会名 金沢 市民劇場賞
得票数/得点
(×5点)
2位
得票数/得点
(×3点)
3位
得票数/得点
(×1点)
トータル
得点
野々市
劇団俳優座
[肝っ玉おっ母とその子どもたち]
2/10 2/6 2/2 19
(7C)
- - 1/1
10 6 3
加藤健一事務所
[煙りが目にしみる]
29/145 23/69 20/20 351
(107C)
16/80 9/27 10/10
225 96 30
前進座
[赤 ひ げ]
21/105 34/102 29/29 290
(108C)
4/20 7/21 13/13
125 123 42
幹の会
リ ア 王
19/95 2/105 32/32 324
(114C)
9/45 14/42 5/5
140 147 37
青年劇場
菜の花らぷそでぃ
30/150 28/84 32/32 341
(113C)
9/45 8/24 6/6
195 108 34
該当作なし 3

以下は,2001年に上演された各作品についての「まとめ」の文章です。

俳優座公演
「肝っ玉おっ母とその子どもたち」
作●B・ブレヒト 演出●A・マーリン
出演●栗原小巻 堀越大史 小笠原良知 ほか

「栗原小巻さんのアンナは、戦場で、したたかに生きぬく姿を荒々しく、息子や娘への母性愛を細やかに表現するとともに、妖艶で魅力ある女という側面も大胆に演じており、メリハリのきいたすばらしい演技だった。」とのアンケートもありましたが、暗くて重たい芝居では、なかなか良い感想が語られる事が無く、アンケートの提出も少なく、得点も低くなったのではないだろうか。

戦争で戦う兵士を相手に強く、たくましく商売をして生きてゆく、“肝っ玉おっ母”のイメージと栗原小巻さんの演技形象のギャップにとまどいを感じた会員も多かった。又、力強い“肝っ玉おっ母”を演じるために、大きな声は割れて聞きとりにくく、長いセリフは早口過ぎて、セリフを考えながら観ていると疲れるし、あらすじを先に見ていないと、伝わらない、解からない芝居で終った感じがする。しかし、もう一度観れば、内容もより理解でき、演出家の言わんとするものが、感じられることが出来て、よかったかなとも思う。

この芝居に、かける栗原小巻さんの意欲と演技に期待するところが大きかっただけに、残念な評価になったので、違った演出で観たいと要望する声も有った。

加藤健一事務所
「煙が目にしみる」
作●鈴置洋孝 演出●久世龍之介    
出演●加藤健一 一柳みる 坂口芳貞 ほか

関東近郊の小さな斎場で野々村家と北見家の火葬が執り行われている中、お婆ちゃんと半分幽霊になった息子との奇妙でユーモラスな会話がくりひろげられる。笑いあり、涙ありで、葬儀という暗く悲しい儀式をとてもコミカルに描がいており、脚本も演出も加藤健一さんの演技もとてもよかったという感想が多かった。

母より先に亡くなる親不幸をしたこと、と残された家族の事を心配する野々村家の息子。

32歳年下の若い恋人を残して旅立つ無念と、自分の娘にその事が分かって許してもらえるかを心配する北見家の父。それぞれの悩みをタバコを吸いながら話している場面が現実の世界の事ではないのに、あたかも現実のように進行していくのが、とても可笑しかった。

加藤健一さんが演じるお婆ちゃんが、霊界と現世を行き来し、二人の思いと残された家族の思いをつなぎあわせ、心かよわせる過程は、とっても人間味にあふれ、人間関係がギスギスした今の世の中にあって、心がほっとし、暖かくなり、疲れを忘れて観られたお芝居でした。

市民劇場の会員の中には加藤さんのファンも多く、「煙が目にしみる」を見てますますファンになり、カトケンさんの芝居は、年に一度は見たいという感想もありました。

またカトケンさんのお婆ちゃん役はとても良かったという人が多かったですが、中には少しオーバー過ぎるという感想の人もいました。

暗くきびしい世相の中で、心から笑え、他者への思いやりや、やさしさが感じられる作品が望まれているようだ。

前進座
「赤 ひ げ」
原作●山本周五郎 演出●十島英明
出演●嵐 圭史 丸山貴子 高橋佑一郎 ほか


さすが前進座!安心して観ていられる。良かったという評価でした。特に舞台装置の評価が高くて、以前見た映画より、舞台の方が紗幕などを使い、手術の場面等々が逆に見るものの創造力を働かせてくれていい。場面転換が早く、すばらしいという意見がでました。演技は赤ひげ役の嵐圭史さん、保本役の高橋佑一郎さんの師弟関係がきちんと描かれていて、保本の医者として人間としての成長が感じられました。貧しいもんは、いつまで経っても貧しい。自分達は、ここまでしか救えない、しかし、負ける訳にはいかないという赤ひげの弱者を助ける強い意志が嵐圭史さんから伝わってきました。

前進座のこの芝居にかける情熱は、事前交流会にも表われ、保本を演じる高橋佑一郎さんの協力で5会場にわたる事前交流会が行われ多数の会員の参加がありました。また医療問題の学習会もあり、高校生との演技指導の交流会もありで、会員増にもつながったと思います。

ただ、あまりにも期待が大きすぎてちょっと物足りないと感じたたという声もありました。山本周五郎原作で映画とつい比較してしまう、ストーリーが判っているのでちょっと損かも。でも映画では子役の長坊が助かるということになっているが、舞台では亡くなってしまう。原作に忠実に描かれています。より一層弱者の痛みを感じました。

全体に前進座ということで、見ごたえのある舞台だったと思います。

幹の会+リリック
「リ ア 王」
作●W・シェイクスピア 演出●平幹二朗
出演●平幹二朗 新橋耐子 一色紗子 ほか


「シェイクスピアはやっぱり平幹二郎さんが最高」「新橋さん一色さんよかった」「勝部さんの渋い演技も光っていた」「気のふれた老いた平幹は可愛かった」「平岳大はこれからだけど長い足でかっこいいし許せるわ」と役者さんの魅力が語られ、主役の重厚で迫力ある演技、脇役のにくらしさ等、ベテランの舞台は安心して観ていられて大いに満足することができた。また、舞台のシンプルさが役者を一層ひきたてていたのではないか。

「リア王」のテーマは、いつの時代にも変わらない今に通じるものがあり、親子の情愛、人間のおろかさ、人間のもつみにくさ、欲望の恐ろしさを表現していたのではないだろうか、老いてあやまらずに判断することのむずかしさを自分に引きあてて思わずにはいられなかった。

家族にしぼった演出が、むずかしいと思っていたシェイクスピアをわかりやすくし、時間も長かったのにもかかわらず、舞台にすいこまれ釘付けにされたのだろう。「冬物語」以上の面白さ,充実した内容で、年に一度は、シェイクスピアを観たいものだ、という要望もせられていた。

青年劇場
「菜の花らぷそでぃ」
作●高橋正圀 演出●松波喬介
出演●青木力弥 上甲まち子 田中慶太 ほか


とても身近で、日常的な内容を丁寧に扱った例会でした。登場しているおばあちゃんや、長男の嫁の民子さんなど、ひょっとしてわたし達の身近にいる人ではないかと思われるほど自然な演技でした。描いているテーマは「食、農業、家族、結婚、リストラ等」もっとも身近な問題ばかりで、特に昨年は牛肉の各種問題や、残留農薬等、食に関するニュースが流れる日々でタイムリーな内容の例会でした。

どっしりした農家の舞台装置と、全般的に明るい展開に、安心して芝居の世界に浸ることができた人も多かったようです。開け放たれた家には近所の人が誰でも気軽に訪ねてくる懐かしい田舎の風景を感じ、兄弟二人が掛け合いで歌うシーンでは、つい口ずさんでしまうようでした。「身土不二」という少々難解な話題があったものの、食事のシーンや、ホタルが舞うシーンなど、日本人のこころの故郷を思い起こさせてくれました。

いろいろ問題がありながら、鉄人と息子大地の対立もアメリカ娘の働きもあり、菜の花を作るという未来に向けて希望が開いていくようにして幕を降ろしました。不透明な毎日であるからこそ、希望ある未来に向けた展開に好感をもった会員が多くいました。ただ、扱ったテーマが多かったことから、ひとつのテーマをもっと掘り下げて欲しかったという声もありました。

日々の生活に元気を与えてくれた今回の芝居は、市民劇場でなければ観られない舞台です。今後も青年劇場ともども大切にしたいものです。





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