浅草寺の賑わいを抜けた、さびしい裏通りにある花岡写真館。 創業百二十年以上たつこの写真館だが、やれデジカメだ、写メールだというこの時代、一日待っても一人のお客もこない日もあるわびしい昨今。 「今日は店じまいだ、もう店をたたもうか…」と四代目・花岡昌志(木場勝己)が妻・友美(竹下景子)に心の内を話しているところに、若い男女(田中壮太郎・佐古真弓)が入ってきます。そんな決心の矢先に久びさのお客。写真館の夫婦は丁寧に応対します。 しかし、ファインダーを覗いた主人はなかなかシャッターを切ろうとしません。レンズ越しに、若い二人が死のうとしている、と感じたからです。カメラの向こうの真実! そんな主人の直感を支えるのは、明治初期に写真館を始めた曾祖父、第二次大戦末期にも写真館を続けていた両親から伝えられた同じような経験からでした。とめなければならない、でも、どうやって? そこへ中老の客(鈴木慎平)がふらりと入ってきます。これがまた...。ファインダーをとおして、明治・昭和・平成と代々の主人が見てきたものは― ,そして支えてきた妻の穏やかだが凛とした存在は―。 時を経て何が変わり、 何が変わらないかがあぶり出される。 人は支え合って生きるもの。 そんなメッセージが心に染みる。(読売新聞・桂) ■このゆびとまれから 舞台は明治時代からつづく東京下町は浅草の写真館。この写真館のカメラを通すと、何やら人の目には見えないものが見えてしまうらしい…。 さてその秘密とは?謎とユーモア、そして人間を愛おしむあたたかさにあふれた山田太一作品。 明治・太平洋戦争中・現代の三つの時代の写真館主夫婦を、木場勝己・竹下景子のコンビが演じます。テレビの『三年B組金八先生』でもお馴染みの木場勝己さんは、こまつ座の『太鼓たたいて笛ふいて』、燐光群の『最後の一人までが全体である』で第十回読売演劇大賞・最優秀男優賞を受賞。今最も脂ののった俳優です。クイズ番組から司会、そして21年間にわたって制作された名作ドラマ『北の国から』などで愛される竹下景子さんは、このところ舞台にも力を入れ、昨年注目を浴びたシアター1010オープニング公演で翻訳物の二人芝居にも挑戦しました。また、話題の愛地球博の日本館総館長を務めるなど多方面で活躍しています。 他に宮本亜門演出のミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』で狂言回し役をつとた、鈴木慎平さん。山田太一作『黄金色の夕暮れ』はじめ俳優座の中心的な存在として活躍する田中壮太郎さん。地人会め最新山田作品『夜からの声』やこまつ座の『頭痛肩こり樋口一葉』などで頭角を顕わす佐古真弓さんなどの出演でおくります。山田太一のメルヘン。現代の寓話をお楽しみ下さい。 ◎お節介を温かく。 人が集まり人情あふれる町、浅草。しかし、舞台となる写真館は裏通りで人通りも寂しく、今日も客足はパッタリ。 店主が店をたたもうと決心した時、現れたカツプルと老人のお客。けれどもいざ撮影のためにレンズを覗くと「被写体の心境」がみえて、写真がとれない。人生の記念に人はいい写真を残そうと写真館を訪れる。しかし、今日のお客は生きる希望を無くしているようだ。ここは下町、浅草。お節介かもしれないが、いっちょ悩みを聞こうじゃないか。現当主の曾祖父にあたる初代が生きた明治時代。父親に当たる先代が体験した大戦末期。懸命に生きた先達の物語は今も生き続けています。 ◎1人3役早替えの妙! 明治・昭和・平成と舞台は3時代を行ったり来たり。木場、竹下、田中の3名は衣装の早替えがあります。 早替えの楽しさは見た目だけでなく,一人の役者が何役もこなすことで、どんな時代にも流れる共通の思いと、その反面、時代に影響される独特の空気を写し出します。 ◎初演の感想。 「1OOの闇があっても、1の光が、希望があれば繭に進めるって事を改めて感じました」(24歳・女性) 「観た後にすごく元気になりました」(61歳・女性) 「若者は年輩者からの呼びかけに答える準備を、いつもしていることを忘れてはいけない。声かけを憶してはいけない」(61歳・男性) |