【作品紹介】
第268回例会 劇団民藝公演
明石原人:ある夫婦の物語
旧石器時代のロマン
考古学者と妻の愛のかたち
●スタッフ
作:小幡欣治,演出:丹野郁弓,装置:松井るみ,照明:秤屋和久,衣裳:前田文子,音楽:武田弘一郎,効果:岩田直行,舞台監督:中島裕一郎

●キャスト
千葉茂則/日色ともゑ/藤巻るも/南風洋子/高橋征郎/細川ひさよ
中地美佐子/高野 大/伊藤孝雄/境 賢一/角谷栄次/竹内照夫
仙北谷和子/箕浦康子/今泉 悠/齊藤尊史/大森民生/相葉早苗
河村理恵子/北田浩之
■ストーリー
明石の女学校教師・直良音を、かつての教え子・村中信夫が訪れます。が、思いもかけぬ事態から、音は11歳も年下の信夫を婿にとることになります。生計のほうは音にまかせきりの信夫は化石を掘るのに夢中です。そして信夫は明石海岸で旧石器時代のものと思われる人骨を発見したのです。しかし、世紀の大発見「明石原人」は学歴社会の壁にはばまれて、小学校卒の信夫の業績とは認められません。挫けそうになる信夫を、音は叱咤激励しながら支えます。折しも満洲事変、日中戦争から太平洋戦争への時代。日本に旧石器時代があったという学説も、この国は神武天皇から始まったとする皇国史観に抵触します。しかも信夫の発見した人骨は、東京大空襲で焼失してしまいます…。
(http://www.gekidanmingei.co.jp/akashi2006.html
から引用)
公演ちらしから
■出色の舞台
                                               渡辺保


「明石原人」は、今は伝説となった明石原人の化石を発掘した直良信夫とその妻の夫婦愛を描いた伝記劇である。

しかし表面的には伝記劇でありながら、そこにはもう一つの主題がある。その主題はアカデミズムの休制と一民間研究者にすぎない直良信夫との戦いである。国立大学の派閥は民間人の研究を認めようとしない。その背後には学者と皇国史観の政治体制との癒着がある。終幕、直良信夫は早稲田大学の谷崎精二によって文学部から博士号を与えられる。なんという皮肉な結果だろうか。

しかし小幡欣治の描く直良信夫には、明石原人は自分の心の中にある、自分の人生はこれでよかったのだという、哀しくもまた一種の達観があって、その心境が観客の胸を撃つ。彼は十分に体制と戦ったからである。この休制と個人の戦いは、現代の目本にも随所にある。明石原人は伝説になったとしても、この直艮信夫の戦いは伝説ではない。劇団民塾がそういう今日の社会へのメッセージを発信したのは、実に久しぶりといわなければならない。

丹野郁弓の演出がドライで爽やかで、このメッセージをうきぼりにした。日色ともゑ、南風洋子はじめ出演者もいい。ことに直良信夫を演じた千葉茂則が出色の出来であった。実力あふれる上出来。「テアトロ」2004年5月号より

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