雪やこんこん:湯の花劇場物語
こまつ座(市民劇場174);92/02/16;金沢市文化ホール
井上ひさし作;鵜山仁演出
市原悦子/三田和代
●「雪やこんこん」への賛辞
「雪やこんこん」はこれまでに私が観た井上ひさしの作品の中でもっとも完成されたものだった(恐らく「きらめく星座」と同等以上の評価を受けるだろう。)。シナリオと構成が大変よくできていて、芝居の内容を考えなくともストーリーを追って行くだけで楽しめ、満足できるような作品だった。軽いだけで内容のない作品や内容があってもつまらない作品は多いが、内容を考える間もなくストーリーに引き込まれていくような作品は稀である。こういう作品を本当のエンターテインメントというのだろう。
通常は演技の行われない舞台裏で舞台に演技が行われ、演技でないと思っていたものが演技だとわかり、だましていたものがだまされ、芝居が始まる場面で芝居が終わる、というストーリー。しかも気をてらったところがなく誰にでも理解できる−こういう作品はほとんど奇跡である。芝居の最初の部分でレコードが「嘘か真か、嘘か真か...」と同じところを繰り返すシーンがあるが、これは心憎いばかりにこの芝居全体を象徴している。すごいと感心するしかない。
舞台の上で行われるものが演技なのは当たり前だが、この作品ではその上にさらに演技の演技をしていた。こういう演技は「くさい芝居」になるのが普通だが、今回の場合この2つの演技が重なりあって、観客を引きつけていた。そういう「くさい芝居」をリアリティのある芝居に変えた市原悦子をはじめとする役者たちの演技も見事だった。
(参考) 井上ひさしの作品の金沢市民劇場における評価(1985年〜1990年)
作品名 |
年 月 |
◎ |
○ |
◎+○ |
きらめく星座 |
1985年10月 |
75.7 |
21.1 |
96.8 |
頭痛肩こり樋口一葉 |
1988年5月 |
61.5 |
30.3 |
91.8 |
泣き虫なまいき石川啄木 |
1986年6月 |
59.4 |
32.8 |
92.2 |
雨 |
1987年4月 |
53.0 |
38.8 |
91.0 |
薮原検校 |
1988年10月 |
47.8 |
35.3 |
83.1 |
闇に咲く花 |
1989年6月 |
44.4 |
41.5 |
85.9 |
しみじみ日本乃木大将 |
1990年9月 |
36.3 |
38.3 |
74.6 |