人情噺文七元結
前進座(市民劇場181);93/03/02;金沢市文化ホール
三遊亭円朝作;高瀬精一郎演出
中村梅之助/嵐芝三郎

●前進座賛
前進座の芝居は,これまで期待はずれだったことがない。今回も期待どおりだった。いつも水準の高い舞台を見せてくれる点では「こまつ座」以上かもしれない。今回は二本立てだったので,一本づつ感想を書く。

おもん藤太
民話の持つ残酷さと素朴さをよく表現している上,ストーリーにテンポがあって予想以上に見応えがあった。きれいな背景と橋の上でのダンスが印象的だった。

文七元結
この作品を楽しめなかった人は不幸である。善人ばかりが登場してすべてが丸く納まるハッピーエンドの作品についてはシニカルな見方をして,なんとかしてアラを探そうとする人がいるが,そういう見方はこの際やめて,本当に楽しかった舞台を素直に楽しんで,人情の世界に浸るべきである。繰り返しになるが浸れなかった人は不幸としか言いようがない。そう言い切れるだけの完成度の高さがこの舞台にはあった。

中村梅之介の芸のうまさ,起承転結のお手本のような原作の語り口のうまさ,前進座のアンサンブルのよさ,この3点については文句のつけようがない。不満があるとすれば,花道と回り舞台のない舞台(これは地方だから仕様がない)とノリの悪い観客(なんて拍手が少なかったのだろう)の2点だけである。 inserted by FC2 system