正しい殺し方教えます

テアトルエコー(市民劇場192);95/02/02;野々市文化会館
M.サットン,A.フィグルト作;キノトール演出
納谷悟朗/牧野和子/熊倉一雄/沢りつお/落合弘治/後藤敦

●「正しい推理ドラマ」に納得
昨年の市民劇場賞は、恐らく選ぶのが大変だったと思うが、もしもこの劇が昨年上演されていたら、文句なく市民劇場賞だっただろう。それほど、面白かった。

一言でいうと観ていて大変気持ちの良い劇だった。あれはどうなったこれはどうなったと後から伏線の行方が気になる劇もあるが、この劇は紐の結び方、時計、置物、手紙、写真といった小道具や伏線が後で全部生きていて大変爽快だった。

話の進め方も大変うまかった。最初はコメディ・タッチで進み、きっと殺人は失敗するのだろうと思わせた後、ハラハラとさせながらも一つづつ律義に計画どおりの仕掛を作り、あ〜ぁ失敗した!と緊張感の緩んだ幕切れのほんの一瞬に結構リアルな殺人を本当に舞台の上で行ってしまった。殺人という不道徳なものを期待させてしまうこの展開には驚いた。生の舞台でないと味わえない楽しさに、思わず「すごい」と(心の中で)唸り、一気に劇に引き込まれた。こんなにわくわくとした幕間は初めてだった。

これらに加え、音楽、セット、俳優にイギリスの娯楽サスペンス・ドラマの雰囲気が良く出ていた。こういう推理モノでは「怪しげな執事」というのがポイントだが、この執事が本当に怪しげで劇の冒頭からうまく雰囲気を作っていた。熊倉さんと納谷さんもそれぞれ、ヒチコックとルパン三世の銭形警部の声優ということで娯楽サスペンスにはぴったりだった。

以上のように爽快感、意外性、雰囲気の三拍子に加え、場面転換がなく二十四時間以内のドラマであり、物語の進行が一定である、という三一致の法則にのっとって劇が作られており、古典的な格調や安定感もあった。文句のつけようのないプロの味ということで「今年は最初から誠に良いものを見せてもらいました」と大納得した。 inserted by FC2 system