とってもゴースト

音楽座(市民劇場196);95/09/26;金沢市文化ホール■
横山由和ほか(脚本・演出),八幡茂(音楽)
浜崎真美/吉野圭吾/三谷六九/佐藤志穂/徳川龍峰

●**座より音楽座
正直いって今回のミュージカルは期待をはるかに上回る大傑作だった。

見終わって半月以上経つが、まだインパクトが体の中に残っている。

これまで市民劇場で観てきたミュージカルはいずみたく氏の作品がほとんどだったがすべての面で今回の作品が上回っていた。ということで、これは私が観た(数少ない)日本のオリジナル・ミュージカルの中で最高の作品ということになる。

この作品は、SF・ロマンティック・コメディ・ミュージカルというかなり欲張ったものだが、テーマは「愛」一本である。その単純で普遍的なテーマを男女ペアの主役という正攻法で描き切った、ということで近来まれに観るさわやかな感動が残った。通常、単純さは素人臭さと紙一重であるが、今回はそういうことはなかった。以前、市民劇場で音楽座のオリジナル・ミュージカル(確か『夢の降る町』だったと思う)を観たときは、さわやかさも感じたが素人臭さも感じた。この音楽座という劇団はこの数年間にすごく成長したのかもしれない。

素人臭さがなくなった理由を考えてみると、主役二人(ロマンティックな雰囲気をよく出していた。特に女主人公の歌が良かった)と道化役の演技の素晴らしさはもちろんのこととして、音楽と踊りの見事さに尽きると思う。このテーマでもったりとした音楽と踊りだったら恥ずかしくて観ていられないが、それを感動に変えたということは音楽と踊りを中心とした表現力の素晴らしさを示している。従来の日本のオリジナル・ミュージカルの日本的なメロディ・ラインは完全になくなり、『美女と野獣』など近年のディズニー映画の音楽センスに近いものを感じた。暗くはないが甘くせつなくなるような劇全体のトーンをうまく作っていた。シンセサイザーを中心とした透明感のある生演奏もそれにふさわしかった。踊りも前回よりも切れ味が良くなったし振り付けも斬新だったと思う。そして、テンポとそれを支えるアンサンブルの良さも素晴らしかった。

というわけで、今回の作品は、単純でわかりやすいテーマを磨き抜かれた新鮮な表現力ですべての人に(若い人を中心に?)堪能させる、という文句のつけようのない舞台だった(脚本をじっくり見るとなんとなく矛盾があるような気もしますが。)。市民劇場の感想文集を見ていると、重いテーマとシリアスな演技のものが高く評価されるようだが、わかりやすいテーマと新鮮な表現に徹した今回の音楽座のような作品の方が会員以外の一般の人々にはアピールすると思う。というわけで、市民劇場が会員増を目指すなら、同じ**座でも重いものばかりやっているような**座ばかりではなく音楽座のような劇団を毎年例会に呼んだらいいと個人的には思う(もちろん前進座もいいですね。)。

今回唯一の心残りは、記念に買ったパンフレットが五百円もした割には誰がどの役をやったのかもわからないようなお粗末なものだった、ということでだけである。

PS.観劇後、教育テレビの芸術劇場で『アイ・ラブ・坊っちゃん』という、やはり音楽座のミュージカルをグッド・タイミングで放映していました。これもなかなか良かったです。そのうち市民劇場でも見られるとよいと思う。
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