金沢市民劇場で1996年に観た作品のまとめ
金沢市民劇場賞アンケートの原稿から

●フィガロが結婚
新橋耐子さんの伯爵夫人をはじめ役者が揃いコメディとして面白かったが登場人物,セリフが多すぎて(しかも,観光会館だったためセリフも聞きづらく)少し疲れた。また,オペラとしてのフィガロの方が良いのではないかと感じた。

●一本刀土俵入り
嵐芳三郎さんの遺作となってしまったのが残念。梅之助さんは格好良かったが前回の前進座作品の文七元結の方が面白かった。

●頭痛肩凝り樋口一葉
再演だが,女の人ばかり6人という設定,よくできた脚本,新橋耐子さんをはじめとする充実した俳優,とすべてが揃いとても楽しめた。内容的にも明治時代の女性の置かれていた立場がよく描かれていたと思う。

●欲望という名の電車
古典的な作品で,主役が杉村さんから栗原さんに交代したところがポイント。内容的には重く,ハードな舞台だったが,栗原さんの演技は(あまり何度も見たくはないが)とても見応えがあった。

●哄笑
どういうものか観る前は予想のつかない劇だったが,期待以上に楽しめた。文学史に新しい視点を当てるというのがふさわしい作品。特に主演の松本典子さんの淡々とした独特の語り口が印象的。

●ロミオとジュリエット
シンプルな舞台,2つの言語による上演が効果的だった。余計なものがないため,両家の対立だけが言葉の違いによって浮き出てくる感じだった。ただ,なんとなく暗い雰囲気で両家の区別がつきにくいのが残念だった。

●金沢市民劇場賞
今年は市民劇場で観るのが2回目以上のものが3本(一本刀,樋口一葉,欲望),古典的な作品が2本(フィガロ,ロミオ)ということで純粋な意味での新作は「哄笑」だけというのが寂しかった。昨年は音楽座をはじめなかなか新鮮なものが多かっただけに,今年は低調だったと思う。単純に楽しめるような作品もなかったため,市民劇場賞を選ぶのは恐らく難しいだろう。

上述のようにどれも一長一短がある。何を基準に評価をするかによって結果は違ってくる。楽しめた度合いからすれば樋口一葉,熱演度からすれば欲望,テーマの新鮮度からすれば哄笑,2つの言語による上演という演出の面白さからすればロミオということになる。個人的には楽しめたものが最上と思うので,普通なら樋口一葉で決まりだと思う。ただし,これは再演である。前回は新橋さんがいなかったので,今回の方が良かったとは思うが,再演のものを市民劇場賞として選ぶほど上回っているかどうかは難しいところである。その他の作品もこれという決め手がないので(中では松本典子さんの演技の素晴らしかった哄笑と演出の良かったロミオが対抗馬),今回は該当なし。その代わりに,フィガロと樋口一葉でお客さんを喜ばせる演技をした新橋耐子さんと個性的な演技をした松本典子さんに特別賞というのでどうでしょうか?
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