一本刀土俵入;藤娘:舞踊

前進座(市民劇場200);96/03/15;金沢市文化ホール
長谷川伸作/平田兼三演出/熊野隆二美術
中村梅之助/嵐芳三郎/藤川矢之輔/山崎辰三郎/中村鶴蔵/嵐市太郎

●昼例会に歌舞伎を観る
今回は土日の都合が悪かったので,休暇を取って金曜日の午後に観た。平日の午後に優雅に歌舞伎を観るのも良いものだと思いながら辺りを見回して驚いた。いつにも増して,ほとんどすべて若いとはいえない女性ばかりだった。こういう風景をどこかで観たことがあるなと,しばらく考えているうちに思い出した。数年前に生まれて初めて行った歌舞伎座の客席の風景だった。というわけで,今回は歌舞伎を観るには誠にふさわしいセッティングということになった。

今回は二本立てだった。前半の日本舞踊の『藤娘』は名作ということだが,正直いって素養のない私にはよくわからなかった。真っ暗からパッと明るくなる出の部分の鮮烈さだけが印象に残っている。

メインの『一本刀土俵入』は,わかりやすい定番の人情劇ということで期待通り楽しめた。特に主役の梅之助が格好良かった。数年前市民劇場の特別例会で同じ前進座で同じ梅之助の『一本刀』を観たが,その時に比べ(といっても前回の印象は残っていないが),今回のは劇の後半茂兵衛がヤクザになってからの雰囲気が妙に立派でピシっと決まっていてホレボレとした。前半のシガナイ相撲取りとの対比がとても面白かった。また,セリフの抑え方と盛り上げ方の切り替えが巧く,最後の有名なセリフの場で観客をいちばん酔わせるというペース配分はさすがだと思った。

お蔦役の芳三郎の方は梅之助に比べると少し印象が薄いような気がした。二月の市民劇場の総会での「お蔦がどこで茂兵衛を思い出すかに注目して下さい」という言葉に気を取られていたせいかもしれない。とはいえ,その「思い出した!」の場面をはじめ越中おわら節を唄う場面など随所で味のある演技をされていた。

不満としては,このお二人以外の俳優さんの区別が(後ろの方で観ていたせいか)あまりつかなかったことである。歌舞伎といえば華やかな役者がゾロゾロ出てくるのを楽しむというお祭り的な面もあるので前進座にもそういう役者さんが増えてくるともっと舞台が華やかになると思った(そうなると上演料も上がるのかもしれませんが。)。それと,全般に舞台転換に時間がかかり劇全体が間延びしたように感じた。これも,半日がかりで弁当を食べながら歌舞伎を楽しむ,というのだと気にはならないのだろうが,多目的ホールで観る歌舞伎となると仕方のないことなのかもしれない。

何はともあれ,ところどころでぜいたくな不満を感じながらも,最後の決めゼリフですべて帳消しということで,これこそ歌舞伎の楽しみかなと思った。
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