第13回金沢市民劇場賞の選考結果・経過報告(金沢市民劇場賞選考委員会)
*金沢市民劇場賞の選考委員及び選考委員会での取りまとめを行うことになった。その結果をまとめて総会で発表したときの原稿
金沢市民劇場賞の選考委員会を次のとおり行い,『越前竹人形』を第13回金沢市民劇場賞に選定した。
第13回金沢市民劇場賞:地人会『越前竹人形』
原作:水上勉;演出:木村光一;出演:有馬稲子/山本亘/犬塚弘他

●選考理由
水上勉の名作をイメージ豊かに総合的な舞台芸術として再現した点を高く評価して第13回金沢市民劇場賞に選定した。1997年という年を振り返った時,まず最初に思い浮かぶのがこの作品の青白くクールなすばらしく洗練された舞台である。

従来の市民劇場賞受賞作は面白いドラマ,深いテーマ,圧倒的な演技といった点で評価の高い作品が多かったが,この作品は,視覚聴覚を中心とした感覚的な面での評価が非常に高かった。演劇は,ドラマ,テーマ,演技といった点が中心部分と見なされることが多いが,それらの充実に加え,舞台装置,音響といった周辺部分ともいえる部分が充実していたことがこの作品の特色である。その充実によって,悲しい物語が美しいイメージとともにいつまでも私たちの心に残ることになった。

●選考会
■日時・場所:1998年2月 1(日)10:00〜16:30野々市事務所
■出席者・人数:選考委員18名 *採決時に不在者がいたため以下の投票総数が18になっていない場合もある。
■選考の方法:昨年末各サークルに配布されたアンケートの結果を考慮しながら,選考委員による討議と多数決によって行った。
■選考の経過
選考は次の順に行った。
1.1997年上演作品のまとめ
2.アンケートの結果上位に来た作品に絞り込んでの討議
3.多数決

■選考の内容
1.1997年上演作品のまとめ
「馬かける男たち」から「花よりタンゴ」まで1997年に金沢市民劇場で上演された6作品について各委員が感想,評価を報告した。昨年上演された作品は,会場アンケートの結果で「大変良かった」が65%を超えるものが4つもあり,例年にない高水準だったことが確認された。しかも,各作品に別々の見所があり,1作を選定することの困難さが予想された。各作品の特徴をひとことでいうと次のようになる。
●馬かける男たち:テアトル・エコーの翻訳ものの軽い喜劇。舞台装置の評価が高かったが,印象が薄くなったせいか,アンケート結果は最下位になった。
●キッスだけでいいわ:青年劇場による人情喜劇。外国人労働問題などを扱ったテーマは6作品中最も現代的だった。役者の演技に対する評価も高かったがやはり印象が薄れたとの意見があった。
●君はいま何処に:民芸によるホームドラマ。ストーリー的には新鮮なものではなかったが,奈良岡さんの"受け"の演技,大滝さんの"血管が切れそうな"迫真の演技が高く評価された。
●カラマーゾフの兄弟:俳優座による重厚で文学的な作品の翻訳劇。選考委員の中には強く押す人が数人いたが,登場する人名の難しさもあって,アンケート結果は下位になった。
●越前竹人形:地人会による文学的なメロドラマ。有馬さんに対する評価は分かれたが,会員の集めた竹による舞台装置,音響,照明など総合的なバランスが非常に良い作品。完成されすぎているのが欠点といった文句のつけようのない作品。アンケートでも1位。
●花よりタンゴ:こまつ座によるミュージカル風喜劇。ミスキャストのない充実した役者たちによる明るい作品は,誰からも好まれた。役者の中では元音楽座の土居裕子さんの評価が非常に高かった。

2.アンケートの結果上位に来た作品に絞り込んでの討議
市民劇場賞の選定にあたっては,各サークルに配布されたアンケートの結果を重視することが何よりも大切なことなので,討議を行いやすくするためにアンケート結果の上位3作(越前竹人形=越前,君はいま何処に=君いま,花よりタンゴ=花タン)に絞って市民劇場としてどの作品がふさわしいかについて討議を行った。予想どおり,選考は難航し「今年は決められないのではないか?」というような状況になったが,「水準の高い作品が揃った年なのに選考しないのはよくない」という結論に達し,各委員は「どの作品にしようか?」という揺れ動く心に困惑と緊張感を覚えつつ,多数決に結果を委ねることになった。

3.多数決
上位3作品についてまず多数決を行った。アンケート結果1位の越前が1位になればすんなり決定だが,討議の感じでは花タン,君いまに大きい声の意見があったので,結果は全くわからない。結果は,「君いま5,越前5,花タン8」となった。「サークルアンケートの結果を選考委員会で覆すには2/3以上の賛成が必要」という慣例があるので,今回もそれに従うことにした。越前と同点で5点だった君いまをこの段階で落とすのも忍びなかったのでまずこの2作品で絞り込みのための投票を行った。その結果,何と8対8の同点になった。仕方がないので座長が投票した越前の方を残すことにした。いよいよ越前と花タンの決戦投票である。ここで花タンが2/3の票を獲得すれば花タンに決定である。結果は10対7で越前に決定。

そういうようなわけで,困難を極めた選考委員会も終わってみればアンケートの結果どおりとなった。しかし,その裏には以上のような経過があったことを記録に残しておきたい。私自身上位3作品はどれが市民劇場賞でもよかった。春先に上演された「キッスだけでいいわ」も年末に上演されていればもっと上位に入ったであろう。「越前竹人形」が勝ったのは「市民劇場会員が苦労して集めた舞台用の竹」の差といっても過言ではない。
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