馬かける男たち

テアトル・エコー(市民劇場205)
97/02/07;金沢市文化ホール
ジョン・セリール・ホールム,ジョージ・アボット作;西川信広演出
田村三郎/沖恂一郎/沢りつお/納谷悟郎/村中実枝/山下啓介/雨蘭咲木子/持田あつし/藤原堅一/良川亜紀子

●仕事と趣味についての教訓劇
今回の作品は、翻訳モノの喜劇をずっとやってきたテアトル・エコーならではの楽しめてしかも味わいの深い舞台だった。欲はないのにうまくいく現代のお伽噺的な展開は独特の暖かみを持っており(例えて言えば映画「フォレスト・ガンプ」のような雰囲気)、仕事で疲れた後に見るには最適だった。

そういう御伽噺によくあるようにこの作品には教訓があった。それは、「趣味で金儲けはできない。趣味は楽しみ、仕事はプロフェッショナルに徹せよ。」というものである。サラリーマンにとってこのことは結構身に染みる。つまらない仕事を止めて、好きな趣味の世界で暮らしていけたら・・・という思いは誰でもある。しかし、趣味を金儲けの手段にしたらダメになる、というのも真実である。

この純粋な心を持った主人公は、その趣味と仕事のバランス感覚を失わなかった。儲からない完全な趣味としてのギャンブルを当て続けるという設定も面白かったが、酔っ払いながらも仕事としての完璧な作詩にこだわるところが私には素晴らしく思えた。プロとしての仕事とアマチュアとしての仕事を理解しているのである。世の中には自分の好きなことだけをやって生計を立てている人がいるがそういう人は本当は幸せなのだろうか?金儲けがからむと楽しい趣味がだんだんつまらない仕事になり、質が落ちてくるのではないだろうか?本当の自己表現は趣味としてでしか実現されないのではないだろうか?というようなことをこの作品を見て考えた。この「仕事と趣味」という問題はなかなか現代的なテーマである。市民劇場の会員にとっても「会員数を拡大したい」という「仕事」にばかりとらわれるのではなく、「楽しく演劇を見たい」というただの「趣味」としてのありかたを取り戻したいものである。主人公のように趣味に熱中した結果の無欲の大当たり(=会員増)というふうにうまくいかないものだろうか?

その他には、舞台装置の面白さが目に付いた。このところ場面転換のない舞台ややけにシンプルが舞台が続いたので今回の舞台装置はとても素晴らしく感じた。同じセットが使い方によってコロコロと変わるのがすごい。

役者は、主人公をはじめとして地味だった。あれだけ冴えない雰囲気の主役も珍しい。そういう地味さが見所だったのだろうが、全般に役者の演技や雰囲気に古臭さを感じ(故意にやっていた時代劇風のセリフは面白かったですが)、インパクトが弱かった。役者の面では、年寄り臭さを逆手にとって「やっぱり古いのが良い」とアピールしていたニ年前の同じ時期の「正しい殺しかた教えます」の方が良かったと思った。
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