君はいま,何処に・・・

劇団民芸(市民劇場207)
97/06/03 金沢市文化ホール■
小島政二郎原作;砂田量爾脚本;高橋清祐演出
大滝秀次/奈良岡朋子/水原英子/有安多佳子/河野しずか/安田正利

●市民劇場の典型となる傑作ドラマ
今回は本当に堪能できた。見事の一言につきる。

失礼な言い方になるが,奈良岡さん,大滝さんの出る作品はきっと古臭い作品だろう,という先入観を持っていた私には,この作品の面白さに驚いた。その面白さというのは物語の面白さというよりは,この二人の役者そのものから滲み出てくる説明のしようのない面白さである。作品が役者に合っていたということである(役者が作品を吟味したともいえそうである。)。

まず,観ていて全然疲れなかった。もちろんクライマックスは非常にドラマチックになっていたが,そこに至るまでの展開に「日常」という雰囲気があふれていた。話自体もよく考えると起伏がない。しかし,2人がいると間が持つ。そのやりとりを聴いているだけで楽しめた。こういう,「疲れない日常」の演技(というより演技を超えたものを感じた)というのは実はあまり味わえない,素晴らしいものだった。

話の内容は頑固な父親とよく出来た娘の親子関係を扱ったオーソドックスなホーム・ドラマである。さささんというこれもまたよく出来た女性が登場し(実はこの人が何者なのかよくわからなかった。その辺が唯一の不満),話にコントラストが加わったが,ほぼ親子関係だけのドラマといえる。疲れないけれども濃密なドラマになっていたのは,そのせいだといえる。演じる役者二人が充実していたため散漫な感じにならず,日常感と緊張感がうまく同居した見応えのあるドラマになっていた。表面上は喧嘩しながらも実はお互いを必要としている関係も,いろいろな作品でよく出てくる設定だが,日常感がよく出ていたためリアリティがあり,クライマックスの大滝さんの絶叫もピタリと決まり,迫力があった。それに加え,コメディとしても楽しめた。特に,大滝さんの「ニコニコ」の演技は最高。笑いと日常とドラマがバランスよく混ざっており,とても観やすい作品に仕上がっていた。お手伝いさん,さささんといったその他の役者さんもとても雰囲気が出ていた。特に,お手伝いさんは田島家の日常を象徴するような存在で,その存在が自然だっただけにお別れのシーンにはリアリティがあった。

前から2番目という席という場所の利(表情がよくわかる。迫力がダイレクトに伝わる。)を割り引いても今年の市民劇場賞はほぼ間違いなし,と個人的には決め付けています。また,この作品は金沢市民劇場に入りませんかと人にお勧めする時の一つの典型になるような数年に一度あるような傑作だったと思う。それだけ演劇らしい作品だったといえる。
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