越前竹人形

地人会(市民劇場209)
97/09/24;金沢市文化ホール
水上勉作;木村光一演出
有馬稲子/山本亘/犬塚弘/金井大/大原美佳子/松波志保/利根はる恵/早川純一/丸林昭夫/村田吉次郎

●これぞ総合芸術
市民劇場で観てきた作品には,ストーリーの展開を追う「ドラマ」が多かったが,今回の『越前竹人形』は,一言でいうならば,ドラマと言うよりは「総合芸術」だった。音と美術とドラマが美しく重なり合って展開し,言葉だけで伝えられる感動とは次元の違う,より広がりのある感動を味わうことができた。ミュージカルや歌舞伎にも総合芸術と呼べるものもあるが,芸術と呼ぶには抵抗があるものも多い。今回の作品には,全体に何とも言えない格調の高さが漂い,普通の演劇とは一味違う雰囲気を感じさせた。

その原因は,古典的な雰囲気のある水上勉の原作の持つ味わいに加え(原作には,腰の曲がった老婆や竹を運ぶ娘は出てこなかったが,そのルーティーンの繰り返しの演技が村の日常をうまく表現していた。),朝倉摂の美術,松村禎三の音楽による。朝倉さんは世界的に活躍している舞台美術家だが,インターナショナルだからこそかえって日本的なものを表現するのが巧いと感じた。素朴な意味での日本的というのとはレベルの全く違う,現代的で洗練された日本らしさを表現していた。冷たく清々しい雰囲気を持つ竹林,回り舞台をうまく使った宇治の船上の場など,作品全体の基調となる暗くて冷たいトーンを作っていた。

その日本的かつ現代的な舞台と非常によくマッチしていたのが松村氏の音楽である。武満徹(”竹”満ではありません)の音楽を思わせる,雰囲気たっぷりの現代的な音楽は,とても効果的だった。嫁入りの場面で流れる,不吉な音楽など,ゾクゾクしてしまった。ドラマの展開を暗示するような音楽の使い方がとても上手かった。

そういうわけで,音と美術とドラマが格調高くまとまった今回のような舞台はめったに見られるものではない。もちろん,有馬さん,山本宣さん,犬塚さんとベテラン役者が揃い,それぞれはまり役だったことが作品の成功の大きな原因といえるが,それだけなら,悪い言い方をすれば「市民劇場でよくある作品」という印象しかなかっただろう。今回の作品は,世界に通用する高レベルの美術と音楽が加わったことにより,作品の格が一気に高まったといえる。

PS・仕方がないとはいえ,開演直前の観客全員による「席ズレ」はさぞかし評判が悪かったことと思います。開演直前はやはり落ち着いた気分でいたいものです。私も気分が落着かなかったせいか(声が聞き取りにくい席のせいもあって・・・。やはり,会場の両サイドはセリフが聞き取りにくいですね。),最初のうちは,演劇に集中できませんでした。開演直前まで落ち着いて座席に座れないのは,特に年輩の方には具合が悪いのではないでしょうか?現在は,全席指定で,座席のない人が「自由席」(言葉の矛盾?)ということですが,「自由席」という意味通りの席をたくさん設けていただき(その分,指定席は減るのですが),そこには最初から詰めて座るようにしていただいた方が精神衛生上は良いのではないでしょうか?何はともあれ,こういったことは「やってみないとわからない」ことが多いですから,今回わかった問題点を基に改善していっていただけるとありがたいと思います。
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