サロメの純情:浅草オペラ事始め

地人会(市民劇場211)
98/02/03 金沢市文化ホール■
斎藤憐作/木村光一演出
前田美波里/中山仁/壌晴彦/福原一臣/二瓶鮫一/鈴木慎平/大西多摩恵/加藤亮夫

●凝った作りの浅草オペラ的作品
今回の前田美波里さんの『サロメの純情』は、(「地人会の」というよりやはりこういう言い方になってしまいます)これまで市民劇場でいくつか見てきたビリー・ホリデイ、ピアフといった女の芸人の一生を描いた作品の中でも最も成功したものだったと思う。最初のおさげに着物の少女時代は、さすがに外見的に少々違和感があり、話も妙に安っぽい感じでポンポンと進み、ノレなかったが、意図して安っぽく進めているのかなと思うようになるにつれて、話に入っていくことができた。

ストーリー的にはミュージカル『エビータ』のような印象を受けた。テンポ良く、洋服を着替えながらだんだん洗練されていって、外国から帰ってきたら見違えていたというのはオードリー・ヘップバーンの映画にもよくある感じだった。こういうのは前回の『奇妙な果実』同様、前田美波里さんにはハマッテいる。ただ、『奇妙な果実』の時は、後半は歌ばかりで歌謡ショーのような感じになったが、今回はそういう印象を受けなかった。これはドラマの作りがしっかりしていたからだろう。今回は、歌に加え踊りも凄かった。というよりは、踊りの方により感動した。美波里さんの声は、例えば前回聞いたばかりの土居裕子さんのような正統的な発声法ではなく、ノドから出て来るような少々癖のある声だと思う。悪くいうとドラエモンのような声(失礼)で聴いていて少々疲れた。ただ、あれだけのダンス・シーンを毎回こなしているというのにはプロとはいえ感服するばかりである。

歌謡ショーにならなかったのは、アポロンとバッカスというギリシャの神が人間の運命を操るという脚本にもよる。ただの女の一生モノだと一本調子で終わるが(そういう感じの作品はしばしばあるのですが...)、この二重構造が人間の運命や生き方とかを作品の途中で時々振り返らせるような時間を作ってくれた。何も考えないうちに終わることの多い音楽中心の作品にしては珍しく考えることの多い作品だった。神から人間への早変わりの面白さもあったし、それぞれの神々がすべて憎めない感じだったのも、作品に暖かみを出していた。

役者では、中山仁さんが詐欺師・芸人というにはあまりにも誠実な感じで合っていなかったと思う。それに最初から最後まで演技に変化がなかったし、年をとったのかどうかもわかりにくかった。どちらかといえば、伊庭役の人と逆の方が良かったのではないか、と思った。

その他では、「石屋の引越し」というような難解なシャレの連発が(この洒落のオチを忘れてしまったのですが...)意外に面白かった。はじめのうちは何だ何だ?と思っていたが、あれだけうまい具合に連発されると結構楽しめ、次に何が出てくるか期待してしまった。この変なシャレを含めて、作品全体を通してのチープな雰囲気が良い味になっていた。もちろん美波里さんの踊りの場面はゴージャスなのだが、それを除くとセットをはじめとしてチープな感じに徹していたのは、浅草オペラへのオマージュという意味もあるような気がする。そういうわけで、浅草オペラを劇中で演じる浅草オペラ的作品を神様と我々観客が眺めるという、なかなかオリジナリティ溢れる凝った構造の作品だったと思う。
inserted by FC2 system