ニノチカ

NLT(市民劇場213)
98/06/08 金沢市文化ホール
メルヒオール・レンゲル作/黒田絵美子訳/飯沢匡演出
黒柳徹子/団時朗/川端槙二/川島一平/平松慎吾/真弓田一平/木村有里/目黒幸子/若菜一義

●喜劇は役者次第
黒柳徹子さんといえば前回の『喜劇キュリー夫人』での終演後のあいさつの印象が(作品そのものについてよりも)強かった。作品については、黒柳さんの印象が突出していて、ストーリーの印象が薄くなってしまった。それに比べると今回の『ニノチカ』は、作品自体を楽しむことができた。会場の反応も(主婦の方を中心に)とても良かったようだ。(ただ、私自身の中での印象では、観た直後に比べると、評価が下がってきているような気がします。軽い喜劇の宿命?)。恐らく、記念グッズの売り上げも伸びたのではないだろうか?(あの強引さは、この不況の中、見習うところが多いかもしれません。会員勧誘にも役立つ?)

今回の作品が楽しめたのは、黒柳さんの相手役の団さん(帰って来たウルトラマン?)が役にはまったいたことに尽きると思う。黒柳さんもいつもどおり非常に強い個性を発揮していたが、それを受けて、逆に包み込むような演技をしていたのは見事だった。発声が魅力的で、キザなセリフも全然浮いて聞こえず、非常に自然な演技だった。翻訳ものが面白いかどうかはこういう、西洋人らしいかっこう良さを自然に持った役者がいるかどうかにかかっていると思う。『気になるルイーズ』に出ていた津嘉山正種さん(洋画の二枚目役の声をよくやっている人ですね)以来の巧さだったと思う。その他の役者さんも、いかにも脇役という趣きのマルクス・ブラザーズ的な三人をはじめ、持ち味を出していた。

『ニノチカ』は、グレタ・ガルボの主演した太古の映画で有名だが、これに比べるとかなりドタバタした印象を受けた。しかし、黒柳さんが演じるとしたらこれしかなかったと思う。そういう意味ではハマリ役だった。昔のモノクロ映画によくあるソフト・フォーカスのロマンティックな雰囲気を出すのは、さすがに無理があるので、そうなりそうな場面になるとうまく喜劇的雰囲気に切り替えていた。その切り替えの機転の見事さは、テレビの司会などで培われた才能というか天性のものだと思った。まさにコメディエンヌである。

「本国の状況が変った」という終わり方は、やや説明不足で(ロシアとはそういう国だという常識があるのかもしれませんが)、ご都合主義のように思えたが、その辺は深く考えず、芸達者な役者たちが同じ場面で繰り広げる密室喜劇として観れば、大変楽しめた。いずれにしても、この作品は、黒柳さんと団さんでなければ考えられない作品だった。改めて、喜劇は役者次第だと痛感した。
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