橙色の嘘

東京芸術座;劇団銅鐸(市民劇場216)
98/11/27 野々市文化会館
平石耕一原作;早川昭二演出
鈴木瑞穂/松下砂稚子/川口圭子/木鬼柳二/浅田和子/田中昭子/前田英治/中村亨/栗木純

●終わり良ければすべて良かった。のに
本当に久しぶりの現代日本を舞台とした作品だった。「君は今何処に」または「キッスだけでいいわ」以来だろう。そのことだけで、新鮮味を感じた。ブツっと切れて終わってしまった幕切れの呆気なさに違和感を感じたもののそれ以外はストーリーの流れの良さとドンデン返しを気持ち良く楽しむことができた。幕切れについては、意見が分かれるだろうが、あれだけ良いペースで観客を楽しませつつ進んでいきながら、最後の最後だけ回答を劇の外に秘めてしまうような演出は多くの観客に欲求不満の気持ちを残しただろう。拍手喝采の準備は出来ていたのに・・・という言いようない不満が残った。

とはいえ、全般に非常によく出来た作品だった。特にタイトルが良かった。「橙色の嘘」ということで、観る前はイメージが沸きにくかったが、観始めると、「夕焼け」「烏瓜」と徐々に橙のイメージが出てきて最後には、ずっと秘めていた主人公の心が橙色になり、観客の心も温かくなってタイトルの言葉とシンクロするのが見事だった。しかも、「真っ赤な嘘」という言葉のパロディになっているのが洒落ている。作品自体、大人が楽しむコメディという趣きだったので、その雰囲気をうまく伝える見事なネーミングだったと思う。もちろんタイトル同様、脚本も良かった。いかにも古臭くウエットな雰囲気になりそうなストーリーだったが、不思議と新鮮な雰囲気があった。人物のキャラクターも分かりやすく、非常にまとまりの良い物語になった。それだけに最後もすっきりと終わって欲しかった。少々ウェットになっても良いから、お客の思う通りに終わって欲しいと思った。

役者さんも皆良かった。鈴木瑞穂さん以外は初めて観る方ばかりだったが、それぞれの役にピッタリだった。鈴木さんは、悪役のイメージがあったが、声が二枚目っぽくて、意外に?格好良く魅力的だった。松下さんが惚れるのも納得できた。この点がこの作品の成功のいちばんのポイントだったと思う。その他の配役では、看護婦三人組という設定にリアリティがあった。実は、私のサークルにも私の母を含めほぼ同年代の看護婦が三、四人いるが、雰囲気が非常に似ている。三人つるんで温泉に行って夜更かししたにも関わらず、翌朝は暗いうちからジョギング、という雰囲気そのままんなのである。そのことにすっかり感心してしまった。ストレスの多い職場の結果または反動として強くならざるを得ない看護婦という職業をキャラクターとして巧く生かしていたと思う。脇役では、馴染みの患者役の槐さんの声と雰囲気に非常に味があった。真似のしようのない印象的な演技だったと思う。

というわけで、以前から薄々感じていたことではあるが、「現代劇は有名俳優があまり登場しない方が新鮮で面白い」という法則が今回も当てはまったようだ。
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