女の一生

文学座(市民劇場218)99/04/03
金沢市文化ホール■
森本薫作;戌井市郎補訂・演出
平淑恵/大浦寛/小林勝也/北村和夫/八木昌子/清水馨/門美樹/石井麗子/栗田桃子/戸井田稔/飯沼慧

●さすが文学座の十八番
文学座の十八番ともいうべき「女の一生」を観て,改めて「さすが」と思った。堂々たる舞台だった。登場人物すべてに確固としたキャラクターが設定されており,それぞれの役者が最善を尽くしてそれらに命を与えていた。一種古典芸能に通じるような,劇団内の伝統の力を感じた。これは,昨年の前進座の十八番「さぶ」を観た時にも感じたことである。こういう作品を持つ劇団は強い(そういえば「さぶ」にも栄二という役が出てきていた。)。

物語は,戦中に作られたものを改訂したものとのことだが,古さを感じなかった。女性が外で働く場合の家族生活と仕事のバランスの問題。イエの存続にこだわった結果,みんながイエから離れてしまった皮肉。こういったことは現代でも十分通用するテーマである。ホームドラマの普遍的なテーマである。

物語は最初と最後を除くとかなり長い時代に渡って年代順に進んでいったが,けいの立場が段々重くなっていくのが面白かった。最初は舞台の隅っこに居たけいが,最後にはステージの真中に座っていた。俳優の立ち位置も非常によく考えられていた。こういう編年体の話の場合,各場面間のつながりが軽くなることがあるが,この作品では女の一生=けいの一生に焦点を絞っていたため,散漫になることがなかった。逆にいうと,けい以外の登場人物についてはかなり省略して描いていた。そういう時代の積み重ねによって全体として重厚な作品に仕上がっていた。

時代を通して背景となる場所が変わらなかったのも重厚さの理由の一つである。この背景となる家のセットが良かった。セットに奥行きがあるため,次に登場する人物が表に現れる前に背景を通りすぎる形になるのが実に良かった。このことによって人物の出入りが自然になり,物語の進行もスムーズになった。セットの奥行きが物語の奥行きも演出しているようだった。

ただ,物語の背景にかなり複雑な日中関係存在していた点については時代を感じさせた。最近「宋家の三姉妹」という中国映画を観て,その時代についての予備知識はいくらかあったのだが,それでもわかりにくい点がかなりあった。

役者はどの人も良かった。私の知人などは,「北村和夫がつい最近まで学生服を着て栄二役をやっていたのだろうか?それも見てみたい...」と変なことを気にしていたが,やはり年齢を考えると今回のようにドラマの背景をしっかり支えるような叔父の役の方がふさわしいだろう。最初から「よっこらしょ」という感じで貫禄がありすぎたが,いかにも明治の男という感じで本当に立派だった。小林勝也は相変わらず飄々とした味が面白い。私は,高村光太郎役以来この人の演技が大変気に入っている。その他の姉妹,結婚相手役もみんな一癖あり,楽しめた。堤家の象徴である母親役の八木昌子も立派だった。この作品の構造上,この人の存在感は不可欠である。平,大滝の主役2人は立派に演じていて,不満はなかったが,贅沢なことをいうと,やや個性に乏しい気がした。恐らく文学座の伝統に従った教科書どおりの演技なのだろう。パンフレットには渡辺徹とダブルキャストになっていたがこうなってくると,渡辺徹の栄二も観てみたかった気もする。

唯一の不満は,幕切れの処理が乱暴だったことである。どの幕も(最後の幕でさえ)音楽が全然入らず,唐突に幕が閉まるような感じだった。あまりに雰囲気たっぷりの音楽は必要ないが,もう少し幕の終わりを締めるための工夫があっても良かったのではないだろうか?
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