ミュージカル青空:my blue heaven

Kダッシュステージ(市民劇場219) 99/06/02
金沢市文化ホール
乗越たかお原案;中村留美子脚本;中村龍史演出・振付
土居裕子/曽我泰久/諏訪マリー

●お話にならないミュージカル
実はこの作品には相当期待していた。久しぶりの若い役者中心のミュージカルであること。しかも、実力のある土居裕子さんが主演。生バンドによる伴奏。どう間違っても楽しめるはず。という一〇〇%の期待を何の疑いもなく持ちながら開幕を待った。

幕の開く前の少々妙な「お客様への参加のお願い」。出演者全員による自己紹介を兼ねた「青空」の合唱で幕開け。何となくテンションが低い。ドラマが始まる前に二つもステップがあるとじれてしまう。しかし、結局、ドラマが始まっても最後まで楽しめなかった。こんなに楽しめなかったミュージカルは初めてである。

楽しめなかった理由はストーリーのつまらなさに尽きる。ミュージカルには大したストーリーのないことが多いが、それにしてもつまらない話だった。というかお話になっていなかった。

物語というのは主人公の成長を描くものである。しかし、文子はずっと子供のまま終わってしまった。恋愛もしないし、力強く成長したわけでもない。

物語というのは主人公の夢とか挫折とかを描くものである。文子の夢とは何だったのか?それがまずわからなかった。文子はどうして日本になど来たのか?ブロードウェイで成功するのが最終的な夢ではなかったのか?ブランクの後アメリカに戻っても再起できないのは当たり前である。

ミュージカルでは恋愛がからまないと面白くない。こういうバックステージものでは、ステージを取るか恋愛を取るのかの葛藤のパターンが多いがそれがなかった(あるにはあったが男優が二枚目風でなかったので面白くなかった)。そういう葛藤がありきたりだとしたら、かわりにどういうドラマがあっただろうか?全然なかった。

家族の間の葛藤を描きたかったのだろうか?しかし、それも全然迫力がなかった。まず、父親のキャラクターがよくわからなかった。やはり、重要な役割を占めるのなら、父親も出てこないと話にならない。

結果として文子は、日本ではかなりの成功を収めたとしても、スターに憧れる女の子レベルから成長していない感じだった。土居さんの容貌は幼い感じで、歌唱法も優等生的なだけに人形が歌っているような印象だった(その点、諏訪マリーさんの歌はドラマを離れても迫力たっぷりで聴かせてくれた。もっと沢山曲を聴きたかった。)。前回の「花よりタンゴ」でデリケートな表現を聴かせてくれた土居さんの歌も今回は全然心に響かなかった。うまければうまいほど心に響かなかった。すべて、劇中劇での芸人の歌、というレベルを越えていなかった。恋愛、別れ、成長・・・そういった心の中の叫びを感じさせるような歌の場面がなかった。やはり、土居さんの使い方が下手だったのである。最後の「青空」を歌う場面など、明るさの中に悲しみを込めた場面にできたと思う。

結局、ストーリーが悪かった。土居さんをもっとうまく使ってほしかった。そんな不満ばかりを書いているうちに、最後にはどうしてこの頃市民劇場で取り上げられる作品は第ニ次大戦中の日米関係の話ばかりなのだろう、と腹が立ってきてしまった。
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