月夜の晩の出来事で・・・武士と呼ばれた侍が。
金澤・盈進社物語


プロジェクトY企画
00/12/9 金沢市民芸術村ドラマ工房PIT2

作・演出:阿寒弁 /演出助手:杉原幸子/舞台監督:江口耕平
音響・照明・舞台:ドラマ工房テクニカルクルー
制作:柳沢謙二ほか

出演:カルロス・タナカ/デービッチ/表川なおき/瀧田信雄/向史生/せいぢ/高輪眞知子/尾山暢治

<<金沢演劇祭2000/かなざわ演劇人協会主催>>参加作品

鐘下辰男さんの作品では『汚れっちまった悲しみに...Nへの手紙』を1995年に金沢市民劇場の特別例会で観たことがある。作品の内容については残念ながらよく覚えていないが,疲れる作品だったことは確かである。キュウリか何かをかじりながらものすごい熱演をしながらしゃべるシーンがあったことを覚えている。今回の作品は,1999年に金沢市民芸術村で行われた鐘下辰男戯曲講座で阿寒弁(金沢市民劇場の会員の方だそうです)という人の書いた作品ということである。もしかしたら,そういう系統の作品なのかなと,観る前は少々警戒してしまった。

観終わっての感想は,「やっぱり疲れた。けれども,こういう場所で観るととても良い。」というものだった。金沢市民芸術村のようなステージと客席の距離が非常に近い場所の場合,役者のエネルギーがダイレクトに伝わる。以前感じた疲れは,舞台と客席が分離していることによる「ご苦労様」という感じの疲れだったが,今回の疲れは,舞台と観客が一体になって,観客も舞台の中の出来事の当事者にさせられてしまったような疲れである。集中して観劇したことによる心地よい疲れともいえる。

作品は2つの場からなっていた。金沢に盈進社(えいしんしゃ)という政治結社が誕生した日の夜の場とその8年後に活動が曲がり角に差し掛かり,メンバー間の軋轢が表面化する場である。同じ場所,同じ登場人物で状況だけが変化しているという対比が面白かった。金沢にこういう政治結社があり,血生臭い抗争をしていたという歴史を私は知らなかったが,そういう史実を掘り起こしてくれたことには意義がある。若者が,やり場のないエネルギーをくすぶらせて現状に不満を持っているというのはいつの時代も変わらない。明治時代の若者たちと現代の若者たちは「金沢」という場所を通じてつながっているのである。格子戸を思わせる簡素なセットも金沢らしさを漂わせていた。

ストーリーについては,公演リーフレットに書いてあった盈進社についての説明書きとほぼ同じで少々物足りない気がした。最後のシーンでは,盈進社の破滅を予感させる茶碗の割れる音と狂気の笑い声が非常に雰囲気を盛り上げていただけに,もう少し後にドラマが続いて欲しい気がした。

役者さんでは,盈進社の遠藤,河瀬,植木という3人を演じた役者さんがそれぞれに強い個性を持っていて見応えがあった。第2場は,まさに3人の対決のような雰囲気があり,非常に迫力があった。特に遠藤役のカルロス・タナカさんには,盈進社のリーダーとしての鷹揚でカリスマ的な雰囲気が漂っており,ドラマの求心力を作っていたと思う。セリフの中には金沢弁がふんだんに出てきていたが,ぴたりとはまっている時と違和感を感じさせる時の落差があったような気がした。ただし,まかない婦・西村役の高輪さんの金沢弁は非常にこなれていて,金沢らしさをうまく出していた。この方は,身のこなしも見事で,その細やかな雰囲気が,荒っぽい男達と見事な対比を作っていた。

最後に,「月夜の晩の出来事で・・・」というタイトルにも関わらず,月のイメージがあまりわいてこなかったのが残念だった(夜のイメージはあったのですが)。冷たい,月夜のイメージが舞台全体から漂ってくれば,もっとクールで非情な雰囲気になったのではないかと思った。

PS.植木役のせいぢさんの髪型を見ながら,つい,先日国会で水を投げた松浪議員の髪型を思い出してしまいました。松浪議員も明治の武士をイメージしていたのでしょうか?
PS.私の記憶が確かなら,河瀬役のデービッチさんはリトル・パイン・シアターの弁慶さんでしょうか?

■金沢市民芸術村の写真
今回は,写真も撮ってきました。
金沢市民芸術村の外観です。私は12月9日の3時からの部に行ったのですが,ご覧のとおり見事な快晴でした。レンガ造りのレトロな味がとても魅力的な場所です。私自身,この場所で演劇を観るのは2度目です。

会場に行くまでにポスターが沢山貼ってありました。

公演リーフレットにいくつか演劇のビラが挟まっていましたが,芸術村が出来たことによって,地元の劇団の活動が活発になったような気がします。こういう創造的な場を作ったことは,金沢市にとってはとても良いことだったと思います。

入口でスタッフの方にお会いしましたので,記念写真を撮らせていただきました。制作の柳沢さんは,女の人に囲まれてとても嬉しそうですね。

今回の上演は,柳沢さんが企画されたもののようですが,次回作にも期待しています。
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