黄金色の夕暮

劇団俳優座(金沢市民劇場227)
00/9/28 野々市文化会館
山田太一作;安井武演出
中野誠也/川口敦子/川上夏代/遠藤剛/四本あや/田中壮太郎/森尾舞

●やっぱり山田太一ねぇ
劇が終わった後,お隣に座った見知らぬ奥様が「やっぱり山田太一ねぇ〜(いいわぁ)」と言うとそのまたお隣の奥様が「そうねぇ〜(いいわぁ)」と答えた(カッコ内は言外の意)。実は,私は山田太一さんのドラマについて,これまでそれほど強い印象を持ったことはなかったのだが,この作品を観て「これが山田太一だったのかぁ(いいわぁ)」とお隣の奥様方にあいづちを打つかように感心してしまった。

まず,作品の観やすさが良かった。前回の『ザ・キッチン』がかなり「疲れる」作品だったので,人間の数も丁度良く,ドラマをはらみながらも話がスムーズに流れる今回の『黄金色の夕暮』は大変評判が良かったと思う。非常に爽快だった。今回の会報に載っていた俳優座の過去の上演作リストを見ながら「今回も暗くて重い作品か?」(ポスターも深刻そう)と予想していたので,この作品に漂う瑞々しい雰囲気は嬉しい誤算だった。近年の俳優座の作品の中でいちばん楽しめた作品だった。

その瑞々しさは,若い俳優がとても生き生きしていたことによると思うが,親の世代のベテラン俳優たちもすべてはまり役だった。配役を考えながら脚本を書いたようなはまり具合だったと思う。特に印象に残ったのは,理屈っぽく,気が強いが,心の中では家族の絆を考えている,という長女のキャラクターである。その役を四本あやさんは非常にリアルに演じていたと思う。井上ひさしの「花よりタンゴ」の時はセリフなしの花売り娘の役だったので,その迫力のある声質と鋭いセリフに驚いた。長男役の田中壮太郎さんが歌った尾崎豊の曲も感動的だった。全曲歌っていたのが非常に効果的だったと思う。その相手役の森尾舞さんは立ち姿からして魅力的だった。長男が好きになるのも納得できた。主役のような雰囲気のある方なので,これから俳優座の中心的な役者に育って欲しいと思う。

脚本も,本当に良く出来ていた。登場人物すべてに見せ場があった。無駄がなく,すっきりしていて,現代性もあふれているのに(ただし,「今現在」というよりはちょっと前の「現代」か?),情感の豊さもたっぷりとあった。一幕切れの期待の持たせ方を始めとして,ストーリー展開の意外さと面白さもさすがだと思った。関係者が偶然一つの場所に集まってしまい,ドタバタが始まるあたりは,同じ山田でも洋次さんの『男はつらいよ』のようになりそうだったが,最後の幕切れを丸く納めるのではなく,結末をぼかして余韻を持たせているあたりは太一さんならではだったと思う。

崩壊しつつある家族にトラブルが降りかかるが,それに対処していく中で崩壊を食い止めようとする力が家族全体の中に湧き出てくる,という展開は山田太一さんのホームドラマにはよくあるパターンなのかもしれないが,これだけ巧く出来ていると全然不満は感じなかった。その他に「法は守るべきか」「正義は守るべきか」といった難しい問題も出ていたが,軽妙なやり取りの中で出てきていたので,それほど深刻にならずに,考えることができた(とはいえ,考えただけで,私にも答えはよくわからなかったのですが)。

というわけで,最後はやはり「山田太一ねぇ」という奥様方の感想に尽きる。俳優座のメンバーと山田太一さんの作品との相性は良さそうなので,今後もこの組み合わせには大いに期待したいと思う。

PS.
山田太一さんの他の作品も読んでみたくなり文庫本で『岸辺のアルバム』を読んでみた(何でも良かったのだが,いちばん手頃に入手できたので)。読んでみて・・・何と設定がほとんど同じだった!郊外に住む夫妻+姉弟。弟の相手役はファミリーレストランではなくハンバーガー店で働く娘。夫の会社はトラブルに巻き込まれ,テーマはやはり家族の崩壊。にも関わらず,非常に面白かった。『黄金色の夕暮』とはまた別の面白さがあった。それほど古い印象もなかった。というわけで,『岸辺のアルバム』の書かれた一九七〇年代後半から現代までというのは変わっているようでそれほど変わっていないのではないかと思った(さらに不安な状況になっている二千年の現在を山田太一さんも私も正確に感じていないだけなのかもしれないが。)。
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