見よ,飛行機の高く飛べるを

劇団青年座(金沢市民劇場228)
00/11/30 金沢市文化ホール
永井愛作;黒岩亮演出
弥生みつき/松熊明子/ひがし由貴/佐野美幸/田村茉紗子/森脇由紀/柳下季里/川先宏美/五十嵐明/宮寺智子/藤夏子/円谷文彦/後藤健/山本龍二/五味多恵子/矢崎文也

●スケールの大きな独創的少女マンガ
ドラマが始まるとレトロな学園ドラマの雰囲気。「まるで少女マンガだ」と思っているうちにどんどんストーリーに引き込まれてしまい、最後にはものすごい高揚感。このスケールの大きさは何だ?とすっかり感動してしまった。この作品は、非常に独創的な作品だったと思う。

劇画的なキャラクターを使って、少女マンガのような展開にしていたのは意識的してのものだったと思う。はじめのうちは少々抵抗があったが、すべての役者が気持ちの良い演技をしていたので、段々心地良くなってきた。「若い男性教師=気が弱い」という公式どおりの新庄先生、宝塚の男役のような安達先生、「坊っちゃん」に出て来そうな上司に取り入る男性教師、したたかな校長先生、厳しいベテラン女性教師。そして、華やかな女子生徒たち。主役の光島だけは一人だけきれいな標準語を話し、アイドル的な存在として浮き出ていた。もう一人の主役の杉坂は対照的に、泥臭いが芯の強い雰囲気。用務員さんの息子役だけは妙にリアルな感じで、非常にインパクトが強かった。こういった劇画的なキャラクターを演ずる場合、臭い演技になる恐れもあるが、この作品では、そういう感じは全然なく、新鮮だった。名古屋弁(?)の独特の味が臭さを消していたのかもしれない。すべて計算された上での演技だったのだと思う。

役者の立ち位置も計算されていた。観客にわざと尻を向けるようなシーンが何度もあった。そのことによって、対立と緊張感が際立っていたような気がする。最後の最後に主役二人が舞台の上に上っていくのも、ドラマの高揚感とぴったりだった。タダの学園モノにはない、スケールの大きさを感じたのもこのせいかもしれない。

古い時代にも関わらず、新鮮さを感じたのはストーリー展開がとても面白かったからである。前半最後の暗闇と雷の中でのラブ・シーンは「いかにも」という感じだったが、前述のとおり用務員の息子役の演技が非常にリアルだったので、この部分がくっきりと際立っていた。後半に向けて非常に大きな盛り上がりを作っていた。後半はストライキに参加するかどうかをめぐる女学生たちの葛藤が中心になるが、若い教師たちの真剣さも交えて非常に緊張感のある展開になっていた。

結局、ストライキが失敗してしまう点については、残念に思った人もいたかもしれないが、私は納得できた。若い人たちの正義感と純粋さにも共感できたが、それを、とどめようとする教師にも共感できた。止めるほうも止められるほうも必死であり、その真剣さに感動した。ストライキをする・しないということよりも、「必死に人生を生きた」という実感の方が大切なのである。若い学生たちの葛藤を見ているうちに、そういうことが、ヒシヒシと伝わってきて、結末はどっちでも良いか、という気分になってきた。見終わった時には妙に元気が出た。若い人の正義感を一方的に賛美するよりは、こういう結末の方が良いと思った。脚本の永井愛さんは、最近注目を集めている人だが、来年の「ら抜きの殺意」という作品も非常に楽しみになってきた。
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