わがババわがママ奮斗記

朋友(金沢市民劇場229)
01/2/19 金沢市文化ホール
門野晴子原作;杉浦久幸脚本;西川信廣演出
長山藍子/菅原チネ子/沓名紀孔子/小島敏彦/まきのかずこ/西海真理/小山内一雄/石川恵彩/益海愛子/岡本成師/山口晴記/上智子

身につまされます。特に男性には

幕が開いてしばらくして舞台に長山さんが登場した。まず、その太くたくましい声に驚いた。私にとっての長山さんは「ありがとう」などずっと昔のテレビのホームドラマでの何となくぼわーっとした雰囲気の方という印象しかなかったので、かなり意外だった。考えてみるとこれは、後で出てくる「わがママ」の長山さんと「わがババ」の菅原さんの迫真のやりとりを暗示していたのである。2人とも大変な役者さんで、リアルかつお客さんを楽しませる絶妙の呼吸を持った演技をされていた。その間に立つ娘役の方は(日替わりだったようですが)、声質からして素人っぽい感じだったが、それがまた良くて、強烈な2人の間で自然で新鮮な雰囲気をうまく出していた。とにかく元気な女性がたくさん出てくるお話で、市民劇場の会員の男女比を考えると、大変評判が良かったのではないかと思う(ちなみに私のサークルの男女比は1対7だが、全体もそれぐらいでしょうか?)。

ストーリーも大変わかりやすく、テンポも良かったが、その内容は介護問題という現代社会では誰もが避けては通れない難しいテーマを含んでいた。女性の社会進出にともない、従来、ほとんど女性にだけに押しつけられていた親の介護を個人の自己実現とどう両立させるかという問題である。その回答は、セリフの中にも出てきたように、欧米に習って、社会全体で老人のめんどうをみる仕組みを作っていく、というものしか考えられないが、現実には、男女の伝統的役割分担を「当たり前」とする意識がかなり根強く残っている。まず、男性にとっては、深く考えずにその伝統に従う方が楽だし、女性の中にも伝統的な男尊女卑的考え方をする人が意外に多い。欧米では、そういう意識はほとんど残っていないため、介護問題についても合理的に解決されてきているようだが、合理性だけでは動いていない日本社会では、「自分の親は自分で」といった、さまざまな葛藤を生んでいる。そういった葛藤を描くのが今回の作品の主眼だったと思う。そして、その葛藤自身が、ドラマを動かすいちばんのエネルギーとなっていた。

正直なところ、私自身(男です)、この作品を見るまでは、介護問題について深く考えたことはなかった。その意味では、このドラマでは大変立場の悪い、男性たちとほとんど同じレベルである。ただ、このドラマを見た人なら誰でも「自分の親と配偶者の親」の将来のことを考えたであろう。私もそうだった。そして、やはり制度としての介護のことを考えた。女性の観客にとっては、「男性にも介護問題を考えさせることができた」と思うだけで溜飲が下がったのではないだろうか。というわけで、私のようなものがあまり偉そうな感想を書くことはできない作品だったと思う。

と一気にトーンダウンしてしまうのであるが、ただ、ちょっと気になったのは、「外国が良い」という感じのセリフが多かったことである。日本の現状が最善ではないにしても、あまりにも単純に決めつけ過ぎてはいないだろうか、という気がした。

こういった、ややこしい問題は別として、普通のホームドラマとしても楽しめる作品になっていた。2幕冒頭のカラオケでうっぷんを晴らす「ろくでなし」の主婦、ババがいない間に大の字になってリラックスするママ、というのはいかにもありそうで笑えるし、命令することでしか愛情を示せない介護される老人の微妙な心理というのもよくわかる。いずれも素直に笑えるものではないのだが、家族の絆を作ることの難しさと素晴らしさを、うまく表現していた。ポスターの雰囲気は、明るくさわやかな政府の広報、といった感じだったのだが、実際は、もっと複雑で多面的な要素を含んだ、あれこれ考えさせてくれるホームドラマになっていた。これは、門野晴子さんの原作の持つ力も大きいのかなという気もした。
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