ほにほに,おなご医者

劇団文化座(金沢市民劇場232)
01/7/30金沢市文化ホール
脚本=堀江安夫,演出=鈴木完一郎
佐々木愛,小金井宣夫,伊藤勉,阿部勉,徳山富夫,田村智明,鳴海宏明,阿部敦子,有賀ひろみ,高村尚枝,小野豊,太田原理香

●生き抜くことは立派である。
「ほにほに,おなご医者」は,文化座お得意の典型的な「女の一代記」だった。回想シーンで始まるパターンもよくあるので,作品全体としての新鮮味はやや薄かった。見所は,,役者の演技力によって,明治生まれの芯の強い女性の生き方を,どれだけ生き生きと再現できるかという点にあったと思う。というわけで,今回の作品の評価は,主役を演じた佐々木愛さんの演技にかかるところが非常に大きかった。そして,その好みは別として,その大役を佐々木さんは見事に果たしていたと思う。

佐々木さんの演技は,東北生まれの主人公ということ意識した非常に泥臭い演技だった。私は,観る人を捕らえて離さないような説得力のある演技だと思ったが,中には「ちょっと濃すぎる」と感じた人もいたかもしれない。いずれにしてもギリギリまで臭くした演技だったといえる。その点を意識したのか,ドラマの展開自体は,非常にテンポが良く,メリハリが効いていた。演技の濃さをうまく中和していた。

例えば,娘の涼子の死の場面など,実際はもっとドラマティックだったと思うが,それを語りだけで済ませていた(この語りが,またよい味を出していた)。その分,「タエさんの死」という本当のクライマックスの方が生きていた。この最期の場面では,本当にゾッとするような迫力があった。晩年のタエさんを演じるときに佐々木さんが着ていた着物は,モデルとなった人が本当に着ていた着物だったそうだが,そういう細かい点に対するこだわりの積み重ねが,リアルな迫力につながっていたと思う。

ドラマのテーマは,「いのちの大切さ」という一言に尽きると思う。生と死が常に向かい合っているような戦争の時代に他人の生死を見つめ続けた女医の姿を描くことによって,「いのちの大切さ」が,まっすぐに見る者の心の中に入ってきた。タエさんは,長生きしたからこそ,親,姉妹,そして子供との死別という辛い出来事も沢山経験せざるを得なかったが,そういうパラドックスさえも,タエさんの強さを引き立てていた。

佐々木さん以外の役者さんでは,源造役の小金井さんがとても良かった。始めは脇役かなと思っていたのだが,だんだん,主人公にとって無くてはならない存在になっていくのが面白かった。声がとても良く,粋な感じや人情味をうまく表現していた。ドラマ全体が深刻になり過ぎなかったのは,この人の存在が大きいだろう。子役のウェイトもかなり大きかったが,こちらの方は,もうちょっと,頑張ってほしかったかな,という気がした。

この作品を見終わって感じたのは,タエさんの生き方は,立派さを感じさせるけれども,「ふつうの人」だったのではないか?ということである。女医さん自体,珍しい存在だったとは思うが,タエさんを,偉人としてではなく,明治時代の女性の象徴として描いていたような気がする。かつてはこういうおばあさんが沢山いたのだ,という気がしてならなかった。私の祖母は,タエさんのような立派な生き方をしてきたとは思えないが,この作品を見た後は,明治・大正・昭和を生き抜いたというだけで何となく尊敬してしまった。私同様,長生きした自分の身内と重ね合せて,何となく嬉しくなった人が,意外に多かったのではないだろうか?
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