北の都に

公演ビラ 写真集旧制四高青春譜からプロジェクトY企画
01/8/2 金沢市民芸術村ドラマ工房PIT2
作=宇田あけみ,演出=阿寒弁
飛竜直人,中村一吉,山崎雅幸,向史生,カルロス田中,高島静恵,杉原幸子,中川喜博,林忍

演出助手=中山優子,舞台監督,デザイン=横川正枝,音響・舞台設営:ドラマ工房テクニカルクルー/オブジェ制作=大前ひとみ,照明=松本徹,制作:柳沢謙二ほか

プロジェクトY企画第2弾として今回上演された「北の都に」は,昨年12月に上演された「月夜の晩の出来事で」同様,「鐘下辰男戯曲講座」から生まれた作品である。「戦前の金沢を舞台に,若者グループを主人公とした作品を作る」という課題が出されたのかは知らないが,それほど,基本的な設定は似ていた。それでいて,受ける印象が全然違うのが面白い。単純に決めつけるわけにはいかないが,脚本を書いた人が男性か女性かによる違いがあるような気がしてならない。前作は,狂気をはらんだような迫力のある舞台だったが,今回はより健康的で情緒的な雰囲気があった。前作が政治的だったとすれば,「北の都に」は文学的だったといえる。

「北の都に」は,その名のとおり,旧制四高の学生たちとそれをとりまく2人の女性を主人公とした群像ドラマである。前回の「月夜の...」が扱った「盈進社(えいしんしゃ)」は,金沢に住む人でもよく知らないような渋い題材だったが,それに比べると四高は現在でも金沢の文化的なバックボーンとして生きて存在である。盈進社にしても四高にしても,その当時の時代背景をよく調べて脚本が作られている点は,このシリーズの素晴らしい点だと思う。ただ,印象としては,前作の方に「金沢らしさ」を強く感じた。「月夜」は,金沢弁をふんだんに使っていたのに対し,今回の作品は,ほとんど金沢弁が出てこなかったのがその理由かもしれない。その分,「いつの時代,どこにでもいる若者」という雰囲気になっていたような気がする。

ドラマの構造も「月夜」と似ており,「若かった時代」と「大人になってから」の2つの時代からなっていた。見終わった後,ストーリーを振りかえってみると,結構単純だったのだとわかったが,観ている時は,複雑に感じた。特に前半は場面の暗転が多く,テンポが悪くなっていた分,ストーリーが捉えにくかった。前半,意味ありげに出てきていた悩める存在の沢田が後半に全然出てこなくなったのも不自然な気がした。雰囲気的にこの人が主役なのかなと思っていたので,ちょっと寂しかった。描いた絵だけが象徴的に出てきていた「さち子の兄」がどういう人か?れい子さんとはどういう関係なのか?についてもわかりにくかった。というわけで,「若さあふれる人たち」と「わけありの人たち」を,平等に扱っていた点がかえってストーリーをわかりにくくさせていたような気がした。

れい子さんが,ある意味では,ドラマの核だったが,演技がやや淡白で,15年の変化があまり感じられなかった。これは,れい子さん自身が変化を悟られないようにしていたこともあるが,もう少しケレン味のある演技の方が面白かったような気がする。ただ,ラスト直前,背景の闇に浮かぶれい子さんの姿はとても効果的でゾクっとするほど巧く決まっていた。この作品のいちばんの見所だったと思う。

その他の役者さんも,それぞれキャラクターにあった演技をしており,見ている方にまで「青春」(ちょっと恥ずかしい言葉ですが)が伝わって来た。笑わせようとするセリフについては,なかなか思ったように受けなかったかもしれないが,これはプロでも難しいことだと思う。ただ,天狗(あんまり目は怖くなかったです)と阿部定というのは妙な連想が働き,結構すごいネタ(?)だったかもしれない。

音楽の使い方もうまかったと思う。戦争の終了を暗転と音楽だけで処理していたのもスッキリしていて良かったが,蓄音器でエグモント序曲を聴くシーンも良かった。いかにも旧制高校という雰囲気がとても良く出ていた。

若い時に過ごした場所,若い時に歌った歌は,各人の境遇が変わっても,それぞれの心の中に生きている。その場所に行って,皆で歌えば,いつでもその時代に戻ることができる。―こういったノスタルジックな感覚は本物の四高同窓生も実感しているのではないかと思う。もしかしたら,この作品を演じた人たちや制作に携わった人たち自身も同じような感覚を持っているのかもしれない。私自身は,寮歌を放吟する人達を見たら,ちょっと距離を置いて見るようなタイプの人間だが,そういう歌と友人を持つ人達が少しうらやましくなった。

PS.舞台となっていた喫茶店の名前がはっきり聞き取れなくて残念。現存するのでしょうか?

PS.プロジェクトYというのはNHKのプロジェクトXのパロディでしょうか?

PS.最後に余談です。私は,以前四高に関係する某大学図書館に勤めていたのですが,その時,次のようなことがありました。「忠犬ハチコウについて調べたい」という人から後から電話が掛かってくるので答えてあげて下さいと言われ,どう対応しようかと考えていたのですが,掛かってきた電話を聞くと,何と「旧制八高について調べたい」ということでした。同じナンバースクールということで電話が掛かってきたのですが,思わず脱力してしまいました。確かに「ハチコウ」には違いありませんでした。ちなみに八高は名古屋だったと思います。
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