菜の花らぷそでぃ
青年劇場(金沢市民劇場239)
2003/12/02 野々市町文化会館
脚本=高橋正國,演出=松波喬介
青木力弥,上甲まち子,小竹伊津子,島田静仁,田中慶太,中川為久朗,崎山直子,松永亜規子,寺田吏宏,佐藤勇生,後藤陽吉,広尾博,アンナ・カネキ,

●ちょっと勉強会っぽかったけれども...
青年劇場の作品は,社会への問題提起があることがいちばんの特徴である。今回の「菜の花らぷそでぃ」でも,現代の日本における農村と食の問題を巡る最新のトピックを分りやすい設定でドラマ化し,楽しみながらも身近な問題として考えさせる作品に仕上がっていた。あるテレビ番組を見ていたところ,最近注目されているリサイクル・エネルギーとして菜の花が出てきたので,「これだ!」と思わず指を指してしまった。それほど,カレントな話題ということである。

反面,ドラマの内容としてはやや「キーワード」と「問題提起」が目立ち過ぎているような気がした。登場人物の1人1人がある特定の考え方の典型として登場し,それぞれがキーワードを説明している感じだった。キーワードが先にあり,それを元に主役のキャラクターを作り,それに対立する概念を別のキャラクターにし...という作り方が見ている方にも分ってしまうような感じだった。それだけ,分りやすいドラマになっていたといえるが,設定としては不自然だったとも言える。青年劇場の作品を見ると時々感じるのだが,何となく特定テーマについての勉強会の例題のようにも見えてしまうことがある。

とはいえ,役者の演技の方は,毎回のことながらセリフが大変聞きやすく,よくこなれた演技になっていた。父親と息子という対立するキャラクターを中心に,ストレスのないおばあちゃん,良い友人,母親 ...と「良い人」が勢ぞろいしていた。山田洋次監督がこの作品についてコメントを書いているのをビラで読んだ覚えがあるが,山田洋次さんの作る映画の世界と近い雰囲気を感じた。何が起こっても,おばあちゃんがいると丸く収まる,という雰囲気が良かった。

ドラマの展開としては,序盤は「キーワード」が目立ち過ぎていた気がしたが,中盤での「都会−田舎」「高度成長−不況」といった対比を兄弟の再会を祝する宴会で表現していた点がとても面白かった。とても美しい農村風景を背景に,兄と弟がお互いの生き方を歌を交えて,懐古的に語り合うシーンは,見事だった。このシーンが伏線となって,最後の息子との和解につながっていたような気がした。

ドラマの最後は,父親と息子が和解する形になっていた。恐らく,父親は夢を持っていたかつての自分を現在の息子の中に発見したのであろう。現在の頑固な自分は夢を忘れている状態だということに気付いたのである。そのきっかけとなったのが,先に述べた弟との会話だと思う。それぞれ夢を持ちながら,別の道を歩んだ弟を見ながら,息子の生き方を認める気持ちになったのだと思う。

ドラマの展開を面白くするために,高校生・外国人といった「異文化」の代表者が平和な世界に入ってくる形になっていた(高校生役は,本物の高校生のようでしたね)。最後には,これらの「異文化」と理解しあっていたのは,予定調和的な気もしたが,それぞれのエピソードの語り口が面白く,作品のテーマと密接に結びついていたので,とても納得のいくものだった。外国人のお嫁さんは,「○○茶」のCMに出てくるような感じで,とても微笑ましかった。

全体としては「勉強会」っぽさが気になるところはあったが,青年劇場らしく,誰もが楽しめ,暖かい気分を見る人の心に残してくれた。一般的に「難解=立派」と捉えられることがあるが,それは間違いである。分りやすく内容のある作品を作り続けている青年劇場のような劇団は非常に貴重な存在だということを思わせてくれる作品だった。
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