月夜の道化師

文学座(金沢市民劇場251)
2004/11/27野々市町文化会館
作=渡辺えり子;演出=鵜山仁
金内喜久夫,神保共子,外山誠二,大原康裕,南一恵,山本道子,若松泰弘,大場泰正,目黒未奈,助川嘉隆

●現代社会を切り取ったファンタジー

現代社会を切り取ったファンタジー
渡辺えり子原作による「月夜の道化師」は、これまで金沢市民劇場で見てきたホームドラマにはない、個性的な作品だった。冒頭から個性的な登場人物によるドタバタしたストーリーが展開したが、その根底にはどこかファンタジーを感じさせるものがあった。

家族構成自体、「ちょっと理由あり」風なのだが、登場人物の方も「実は・・・」という人ばかりで、すべてに癖があった。そういう登場人物たちのかなり深刻な過去が、何人かの闖入者によってコメディタッチを交えながら明らかにされていく過程がこのドラマの中心だった。

その過程は、現実と過去とが突如入れ替わったり「あっちの世界」に行ってしまったり、「こっちの世界」に戻ってきたりしながら進んでいく。その作り物めいた感じが、ファンタジーの気分を作っていた。

しかし、その明らかになった過去は辛い内容だった。喜劇としてドラマは進むのだが、ところどころ怒りの爆発が起きる。長年に渡る老人三人の三角関係も切ないものだった。セーラー服、野球のユニフォーム・・・と登場人物の衣装がどんどんバラバラになり、全く統一感がなくなっていくのが、妙な滑稽さを醸し出していたが、これは考えてみると家族の絆がバラバラになっていく様子を象徴していたのかもしれない。逆にエンディングで全員が喪服のような黒い衣装になったのは、家族のまとまりが最後になってようやく戻ったことを暗示していたようだった。

このドラマでは老人の痴呆問題、中高年の失業問題、専業主婦の心の問題など現代社会の抱えるいろいろな問題を一つの家の中の問題に凝縮し、さらに戦争の生む悲劇という要素を加えていた。この辺は、少々欲張り過ぎだったのかもしれないが、それほど不自然さを感じさせない点がかえって現代の家族の混沌とした状況の深刻さを印象付けていた。

役者さんたちは、ベテランを中心にどの方も安心感と余裕のある演技を見せてくれた。喜劇的なやり取りもとても自然だった。特に金内さんの飄々とした演技は、どたばたした雰囲気の中でリアルさを感じさせてくれた。反対に時々「あちらの世界」に行ってしまう痴呆気味の老人役の神保共子さんの演技は、ドラマのファンタジックな面を象徴していた。どこか可愛らしさを感じさせる演技で、金内さんが今でも慕っていることが納得できた。

舞台は、転換なし休憩なしで進んでいった。平凡と言えるほどシンプルな舞台が続いた後だったので、最後の非現実的な幻想的なシーンがとても美しく浮きあがっていた。

この「月夜の道化師」は、喜劇なのか悲劇なのか?現実的なのか非現実的なのか?が判然としない作品だった(そういう点では好みを分かつところがあったと思う)。そういう区分を鮮明にせず、一つの作品の中にいろいろな要素をそのまま盛り込んでいた点が個性的だった。単純に割り切れないという点では、爽快さはなかったのだが、ドタバタしているように見えて、現代的なリアリティに溢れていたのがいちばんの特徴だった。渡辺さんの作品を見るのは初めてだったが、これかもその作品に注目していきたいと思う。

PS.渡辺さん自身が、この作品にご自身が登場するとしたら、どの役でどういう演技をされるのだろうか、ということをふと思った。一度、演技の方でも金沢の舞台に登場して欲しいと思う。
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