十二夜
ロマンティック・ミュージカル・コメディー

俳優座(金沢市民劇場252)
2005/02/07 金沢市文化ホール
作=ウィリアム・シェイクスピア,訳=三神勲,上演台本=佐竹修,上田亨,演出・美術=佐竹修,作曲・音楽監督=上田亨,声楽指導=北川潤,ステージング=沢のえみ,照明=森脇清治,音響=小山田昭,衣裳=若生昌,舞台監督=戸田剛,制作=下哲也

若尾哲平,堀越大史,谷部央年,脇田康弘,内田夕夜,坪井木の実,河内浩,須田真魚,田野聖子,西川竜太郎,田中美央,志村史人,佐藤あかり,生原麻友美,後藤浩明

●音楽座風シェイクスピアに夢中

俳優座といえば栗原小巻さんの演じる重く深刻な翻訳劇の数々を思い出すが,今回の「十二夜」は,それとは正反対の軽やかな気分を持った作品に仕上がっていた。かつて日本のオリジナル・ミュージカルを上演する「音楽座」という新鮮な雰囲気を持った劇団があったが,それを思わせるような爽やかさを感じさせてくれた。

ただし,俳優座のシェイクスピアとしては,楽しい演出の盛り込まれた「お気に召すまま」という作品もあった(1988年に金沢市民劇場でも上演されている。これにも女装だったか男装だったかが出てきた)。今回の「十二夜」はその流れを汲み,さらにミュージカル風のアレンジを加え,誰でも楽しめる楽しさ溢れるシェイクスピアになっていた。

当然,原作をかなり脚色していたが(原作を読んでいないので推測ですが),「シェイクスピアはロマンティック・コメディの元祖だった?」と思わせるほどのこなれたストーリー展開となっていた。男装した女性がそのまま公爵の使用人にすぐなれるのか?オリビアは違う相手でも良いのか?といった展開は,真面目な人には「ありえない」と言われそうなのだが,そのことに目をつぶり,「この際,一緒に楽しんでしまおう」とお客さんの方に思わせる勢いがステージ全体から伝わってきた。

そういう意味では登場した俳優座の役者さんすべてのサービス精神の旺盛さが今回の作品の楽しさの源泉だったと言える。役者さん自身がバンド演奏をしていたのも面白かった。シンセサイザーを中心とした音楽にも近年のディズニー映画などを思わせるような気持ちよさがあり,シェイクスピア作品との違和感を感じさせなかった。

特に堀越大史さんが出て来てからが,客席のノリがよくなったように感じた。最初の方は,上演前に若尾哲平さんが「コメディなので笑ってあげてください」とご挨拶されていたとおり,翻訳劇独特の笑いに少々ついていけないようなところがあったが,堀越さんが出てきたあたりからは,コメディの感覚がピタリとはまってきた気がした。堀越さんは,他の役者さんとちょっと異質な雰囲気を常に漂わせていたのが良かった。手足が長く,その動きを見ているだけでユーモアが伝わってきた。声もとても良く,見ているだけで嬉しくなる演技だった。

一度乗せられてしまえば,その虚構の駆け引きの世界に一度にひきつけられてしまった。男装の麗人風のヴァイオラ,わがままなお姫様そのものオリヴィア,道化4人組...といった面々の演技の楽しさにすっかりはまってしまった。キャラクターの描き方が非常に分かりやすく,それぞれの役柄に愛着を感じた。

特にドラマの中心であるヴァイオラとセバスチャンの2人が本当に双子のように見えたのが良かった。これはこのコメディを盛り上げるだめの必要条件だったかもしれない。あたかも一人二役の早替わりを見るような展開がわくわくするような驚きと笑いを誘っていた。だんだんと最後のハッピーエンドは読めてきたが,それがそのとおりになる快感というのもコメディの楽しみの一つだと思う。セバスチャンがオリビアの求婚に即答する辺りのスピード感なども冷静に考えると「これで良いのか?」という感じなのだが,後半の展開のスピード感を作るにはぴったりだった。

ただし,普通のミュージカルと一味違う面もあった。多くのミュージカルの場合,最後は明るく華やかに終わることが多いのだが,今回は道化が一人残って,自分が若かった時を回顧するような味のある歌を聞かせてくれた。この歌によって「今まで見ていたお話はフィクションだったんだな」ということを思い出させ,荒唐無稽の話に夢中になっていた自分を見出す構成になっていた。今まで見てきた作品がかえってくっきりと浮かび上がり,本当に夢のあるロマンティックな話だったなぁと,急に今まで見てきた作品がとてもいとおしくなった。

これまでいろいろなタイプのシェイクスピア作品を見てきたが,夢中になって楽しめるという点では,出色の作品だったと思う。
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