浅草・花岡写真館
地人会(金沢市民劇場254)
2005/05/31 金沢市文化ホール
●スタッフ
作=山田太一,演出=木村光一
●キャスト
木場勝己,竹下景子,鈴木慎平,田中壮太郎,鈴木健介,佐古真弓,大原やまと,上田裕之

●アイデアは良かったが,少々期待はずれ

今回の作品は,私自身初めて生のステージを見る竹下景子さんが登場する作品ということで期待したが,かなりまじめで渋い感じの作品だったこともあり,少々期待はずれだった。

「同じ場・違う時代」に生きる「違う人物」を「同じ俳優」が演ずるという独特なアイデアを持った構成で,次に何が起きるのか予想できない雰囲気で始まったが,場面が変わっても,ドラマ自体にダイナミックな動きがあまり感じられなかった。どちらかというと,もったいぶったような重さを感じた。時代が変わっても同じ場所をグルグル回っているだけのような感じで,はずんだ感じがしなかった。基本的には「親子三代」の話を描いていたのだが,この三代に共通する目立った特徴のようなものを際立たせないと面白みは出ないと感じた。

ドラマの最初と最後では,確かに登場人物たちはそれぞれに成長していたのだが,全体としては,同じ気分が延々と続いていたような感じだったのが残念だった。

その中で印象に残ったのは,戦時中の「幽霊の写真」のエピソードだった。この辺りにはゾッとする恐さがあった。演劇が終わった後も,まぶたの裏には,真剣な眼差しをしたセピア色の家族写真の印象がいつまでも残った。たとえこの話が嘘だったとしても,この写真には確かにリアリティがあった。写真の持つ不思議な力を感じさせるエピソードだった。その他の写真も目を引き付けるような写真が多く,ドラマの深みを作っていた。

ストーリー展開については,前述のとおり,わざとすっきりした展開にならないようにしていたようだった。素直に作れば,「ちょっと良い話」になりそうだったのに,いちいち突っかかってくるシニカルなおじさんを加えることで,甘い話になるのを避けていたようだった。この点については,賛否が分かれると思う。個人的には,もう少し甘さのある話の方が良かったと思った。

このドラマは,人間はお互いに世話を焼きあうことで自分自身が元気になれるというメッセージを伝えていた。写真店主は,仕事に対する意欲を失いつつあったが,店を訪れるお客さんのことを心配する一方で,実は自分自身の元気を得ていた。人間は皆,自分の人生についてどこかで虚しさを感じている。その虚しさを,他人と関わることによって生まれるエネルギーで埋めているのではないか,ということを考えさせてくれた。

役者の中では,この虚しさと世話好きさを見事に演じていた写真店主役の木場さんが特に印象に残った。木場さんは口跡も良く,江戸っ子的なさっぱりした職人気質がよく出ていた。生きるエネルギーの基というのは,自分の仕事への誇りとこだわりなのだと実感させてくれた。

その奥さん役の竹下景子さんも,役柄にはぴったりだったが,知名度の高さに比べると少々地味な気がした。もともとアクの強さよりはふわりとした自然な暖かさを感じさせてくれる方なのだが,その分,演技に面白みが不足していた。舞台に登場する竹下景子さんを見るのは今回が初めてだったが,やはり,舞台よりはクローズアップのある映画やテレビの方が相応しい方なのかな,という気がした。

今回の作品については「同じ役者さんが,3つの時代を演じ分ける」と予告のお知らせに書いてあったので,もう少しケレン味のあるコメディ風の作品を期待していた。その点が期待外れに感じた理由の一つである。個々の役者さんの演技も堅実ではあったが,全体的には地味な印象だった。竹下景子さんを生で見られたのは良かったが,残念ながらどこか中途半端なところの残る作品だった。
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