ドライビング・ミス・デイジー
劇団民藝+無名塾(金沢市民劇場256)
2005/09/20 野々市文化会館フォルテ
●スタッフ
原作=A.ウーリー;演出=丹野郁弓
●キャスト
仲代達矢,奈良岡朋子,千葉茂則

●夢の顔合わせで「生きる力」を描く
長年,金沢市民劇場で演劇を見てきた人にとって,奈良岡さんと仲代さんが同じ舞台上で演技をするのを見るのはオールスターゲームを見るような楽しみがあったのではないだろうか。「ドライビング・ミス・デイジー」は,まさにそういう作品だった。無名塾の作品も劇団民藝の作品も毎年のように見ているが,こういう機会は,かなり珍しいのではないかと思う。

ただし,「大物二人」が登場したからといって,舞台自体はそれほど華やかなものではなかった。場面転換なし,休憩なし,豪華なセットもなし,ということでどちらかというと地味な舞台だった。言い換えるとこの二人の演技だけを集中して楽しませてくれるような作品だった。しかし,その二人が一対一で緊張感溢れるやり取りをするのではない。適度に力を抜きながら,手に手をとって生きていく老人二人の心のつながりを描いていた。そのパートナーシップが自然と深まっていくのを見るのは微笑ましく感動的だった。

この作品はアカデミー作品賞を受賞した映画版が有名であるが,実際は演劇版の方が先にあったということである。この2つの版を比較するのも楽しみの一つである。
奈良岡さんは,映画版でミス・デイジーを演じたジェシカ・タンディと表情からしてよく似ていた。凛としたプライドの高さを残しながら,実は老いの不安と弱さを持っているキャラクターにぴったりだった。奈良岡さんがこれまで演じてきた多くのキャラクターの中でもはまり役と言っても良いのではないだろうか。

仲代さんの演じた運転手ホークは,映画版でのモーガン・フリーマンとはかなりイメージが違った。映画版よりももっと道化的な感じを出していた。この役については,もう少し寡黙なイメージを持っていたのだが,これは演劇版と映画版の差なのかもしれない。仲代さんの演技は,信頼感と人の良さを感じさせるものだった。いつもよりギラギラとした雰囲気を抑え,ベテランならではの包容力のある重さと軽妙さを同時に感じさせてくれた。

いつもは重い雰囲気のあるベテラン二人が軽く演じることによって余裕のある愉しい雰囲気が出ていたのが良かった。今回,休憩無しの上演だったが,一場一場ごとの暗転が多く,短いエピソードの連続だったのも良かったと思う。話がパッと飛ぶこともあったが,このことによって,ドラマの流れに軽やかなリズムを作っていた。

そういう軽やかなドラマだったのだが,内容的にはアメリカという国の抱える人種問題,家族問題,老人問題などいろいろな要素が詰め込まれていた。二人の主役によって象徴的に描かれていた人種差別問題を中心にアメリカという国の縮図を表現しているような作品だった。その中でこの作品が伝えようとしていたいちばんのメッセージは,「一人の人間と一人の人間のつながりの大切さ」だったような気がする。ドラマの最後の方で,少し弱気になったディジーがホークに向かって,さりげなく,しかし感動を込めて「あなたは友達」と語るシーンがあったが,この言葉は重かった。この部分に全体のクライマックスがあった。この部分で湿っぽくならないのが奈良岡さんの素晴らしさである。

ドラマの締め方も印象的だった。ずっと限定的にしか使ってこなかった音楽がドラマが終わった瞬間,パっと明るく鳴り響いた。その後,現在の奈良岡さん,仲代さんが素顔で登場してきて,気分がさらに華やかになった。人間は必ず老いるという現実を描きながらも,最後は「まだまだ元気だ,いつまでも元気だ」と爽やかに締めてくれた。生きていく力を与えてくれるような見事な作品だったと思う。
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