最後の恋
シルバーライニング(金沢市民劇場262)
2006/10/06金沢市文化ホール
●スタッフ
作=ニール・サイモン,訳=黒田恵美子,演出=竹邑類
●キャスト
出演=鶴田忍,音無美紀子,萩尾みどり,真織由季

● 健闘は認めるが・・・うーむ

翻訳ものの喜劇,オムニバス,不倫−こういったタイプの作品は,市民劇場にとっては,鬼門である。過去何作かこの手の作品を市民劇場で見たことはあるが,いずれも中途半端な印象だった。特にニール・サイモンの作品は,遠い遠い昔に一度見て,「うーむ」という何とも言いようのない感想を持ったことがある。残念ながら今回も同様の印象だった。改めて,この手の作品の難しさを痛感した。

洒落た雰囲気を出そうという努力は分かるのだが,ピンと来なかった。単なる翻訳ものの喜劇ならば,まだ良いのだが,それに不倫が加わると,違和感が出てくる。今回,鶴田忍さんの演じたバーニーは,最終的には不倫を思い留まるのだが,その結末には,意外性はなかった。バーニー自体,「不倫という柄ではない」という2枚目半的キャラクターではあったのだが,どうも本気で不倫をしてやろうという雰囲気が伝わって来なかった。柄にもない人が,本気になってしまうというところにユーモアが出てくると思う。本気度が強すぎてもコメディにはならないので,その加減が難しいのだが,鶴田さんには,もう少し危ない雰囲気があっても良かったと思う。

しかし,そういう本気で不倫をしそうな雰囲気を持ったコメディアンというのは,なかなかいない。私自身,「日本人は...アメリカ人は...」という区分の仕方は好きではないのだが,こういうドラマを見ると,どうしても文化の違いを感じてしまう。日本人的な感覚からすると,不倫をするならば,もっとジメジメとした暗い雰囲気でないと落ち着かない(?)。しかし,そうなるとコメディにはなりにくい。いずれにしても,私には明るい雰囲気の不倫からはリアリティが感じられなかった。

それと,市民劇場で鑑賞する作品で,不倫を認める結末になるはずはない,という妙な安心感(?)もあった。そういう状況では,スリリングな楽しさは味わえないだろう。

というようなわけで,会話が多ければ多いほど,その内容が空虚に感じられてしまった。基本的には,ロマンティックな雰囲気の中で,人の良い男性が,3人の女性に振り回されるというストーリーなのだが,その絡み合いが三人三様に空虚だった。決して,女優さんたちが悪いわけではない。やはり,それを受けるバーニーの内心がはっきり伝わってこなかったのが原因だと思う。

会誌を読むと,「何不自由ない人生を送っているが,もう一度青春を味わってみたい47歳の男性」と書いてあった。確かに鶴田さんにはそういうムードがあった。しかし,それ以上に,満ち足りているような気がした。三人の女優さんたちからは,不倫に対するモチベーションが非常に強く感じられたのとは対照的だった。そういう意味では,バーニーは,この三人の女性のカウンセラーのような役割を担っていたと思う。その点は面白かった。

その他,今回面白かったのは,同じシチュエーションの繰り返しのオムニバス形式にすることで,ユーモアが自然とにじみ出ていたことである。バーニーが少しずつ学習をしている様子が,とても健気だった。

今回の作品は,ニール・サイモン原作ということで,最初からある程度予測は付いていたのだが,私にとっては,居心地の悪さの方が強く残る作品となってしまった。鶴田さんの持つほのぼのとした雰囲気には,応援したくなるような雰囲気があったので少々残念だった。
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