三人吉三巴白浪
前進座(金沢市民劇場259)
2006/03/13 石川県立音楽堂邦楽ホール
●スタッフ
作=河竹黙阿弥
●キャスト
出演=藤川矢之輔,瀬川菊之丞,河原崎國太郎 ほか  

●もう参りました。さすが黙阿弥

前進座による「三人吉三巴白浪」の通し狂言(全幕上演)は,「もう参りました」というぐらい素晴らしい内容だった。金沢市民劇場で,これだけ演劇をたっぷりと鑑賞できたことは近年なかったと思う(3時間に渡る上演ということで,さすがに観終わったときには疲れましたが)。

まず,セットが素晴らしかった。今回は全幕通しでの上演ということで,かなりの頻繁に場面転換があったが,石川県立音楽堂邦楽ホールという会場に恵まれたこともあり大変スムーズな舞台転換だった。川端〜家の中〜寺の裏〜和尚吉三の隠れ家〜幕切れの火の見櫓・・・とどの場面も文字通り絵に描いたような美しさだった。パッと場面が変わって雪景色になるといった歌舞伎ならではの鮮やかさを至るところで実感できた。幕切れで邦楽ホール内の提灯が「パッ」と一斉に点灯されたのも嬉しかった(素晴らしいサービスでした。邦楽ホールには花道もあるので,今回,野々市で観た方と金沢で観た方とでかなり上演効果の点で差があったのではないかと思う)。

ストーリーはかなり複雑だった。会報に掲載されていた人物関係図が大変重宝した。この作品の原作は河竹黙阿弥によるものだが,こうやって改めて全幕通して見ると,「よくこれだけ因果関係をつなげたなぁ」と感心してしまった。現代社会から見ると,「ありえない」というような非情なシーンもあったが,黙阿弥の作った因果関係の中に組み込まれると,ついつい納得させられてしまった。

また,今回「通し」で上演することによって,「すべての人物は他者とどこかで繋がっている」という設定がより強調されることになった。自分では良いことをしているつもりでも,実は他人に迷惑を掛けていたり,たまたま拾ったお金をきっかけに人生ががらりと変わったり,拾った命だったのにあっさり切り殺されたり・・・と黙阿弥はさまざまな人間ドラマをこれでもかこれでもかと一つのドラマに盛り込んでいた。基本的には「百両をめぐる悲劇」ということで,次第に「ロード・オブ・ザ・リング」を思わせるようなストーリーにも思えてきた。「金目のものには魔力があり,災いのもとになる」という教訓も含んでいたのかもしれない。今回,この作品を初めて観たが「さすが黙阿弥」と思わせうるような独創的なストーリー展開にすっかり感心してしまった。

今回の主人公は,男2人,女(?)1人の3人組の泥棒だった,この構図も良かった。「ルパン3世」「明日に向かって撃て」「俺たちに明日はない」といった人気の高いアニメや映画の原点がここにあるのではないかと思った。この個性的なキャラクターを持った3人が舞台前面に並んだ時の格好良さは,反体制的な人物たちを主役とするアクション・ドラマの様式美の基本だと感じた。

それを演じた,前進座の役者も素晴らしかった。要となる和尚吉三役の藤川矢之輔さんの貫禄,色悪的な魅力たっぷりだった瀬川菊之丞さんのお坊吉三,男か女か?怪しく倒錯した雰囲気たっぷりの河原崎國太郎さんのお嬢吉三。その他の役者さんも含め,皆さん声も聞きやすく適材適所という配役だった。

この3人以外では,「もう一つのカップル」の「おとせ・千代三郎」コンビも良かった。まさに悲恋という雰囲気を初々しく演じていた。これと対極の存在である土左衛門伝吉(それにしても「ドザエモン」というのは・・・)役の市川祥之助さんもピッタリだった。演技を超えたようなはまり具合だったと思う。

というわけで,今回の「三人吉三」の通し狂言は,すべての点で素晴らしかった。創意工夫に富んだ純粋なエンターテインメントとして大いに楽しむことができた。
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