銃口:教師・北森竜太の青春
青年劇場公演(第267回例会)
●スタッフ
脚本=布勢博一;演出=堀口始一;原作=三浦綾子

●キャスト
千賀拓夫,井上昭子,森山司,原陽三,島田静仁,葛西和雄,名川伸子,広戸聡,吉村直,湯本弘美,大木章,大嶋恵子,島本真治,北直樹,船津基,清原達之,高山康宏,大山秋,平井光子,松村有希子

2007年7月23日 金沢市文化ホール

先生をめぐる大河ドラマ

三浦綾子の最後の小説を演劇に作り直した「銃口」は,青年劇場がこれまで取り上げてきた作品同様,まじめな題材に真正面から取り込んだ清々しい作品だった。この「真正直さ」は三浦綾子の作品の持つ雰囲気にぴったりだと感じた。

青年劇場のまじめさは,勉強会のようなちょっと硬い雰囲気を作ることがあるのだが,今回の「銃口」の場合,思ったほど硬さを感じなかった。その理由は,ストーリー展開自体が分かりやすく,一種「次はどうなるのだろう?」というテンポの良さがあったからだと思う。金沢市民劇場では,「女の一代記」のような作品を沢山見てきたが,「男の一生」を描いた作品がそれほど多くない気がする。その点も新鮮だった。

若い新任の先生が,戦争に翻弄され,教師という職業に対し疑念を抱くという点では「二十四の瞳」と重なる部分があったが,実際の戦場の場が出てくるなど,空間的にも時間的にもスケールの大きさを感じさせてくれた。文字通り波乱万丈の物語であり,長編小説的な流れに浸ることができた。

悲惨な戦争の時代をくぐり抜け,明るい未来につながるエンディングになっていた点も爽やかだった。教えることに喜びを見出すことが難しくなってしまった現在,「先生の仕事というのは,人と人との心を結ぶ事なんだね」という教育の意義を北森竜太が見出すエンディングは,原点を見直す意味を持つとともにうらやましさを感じさせる部分でもあった。

途中三浦綾子さんらしさを感じたのは,竜太とその恩師の関係である。どこかイエスと裏切り者の弟子を思わせる部分があった。この作品は,竜太の魂の救済の物語でもあると思った。

原作はどうか知らないが,この作品では生徒の姿が出てくることはなく,もっぱら職員室でのやり取りが中心だった。社会の縮図のようにいろいろなキャラクターの先生が居る点が面白く,それぞれの人生が一体どういうものになったのか知りたい気もした。この辺は,原作では描かれているのかもしれない。 最も感動的だったのは,やはりラストシーンだった。青年劇場の作品は,考えてみるといつもそうなのだが,年配の役者さんによる,重みのある,しかしシンプルな言葉が全体を締めてくれる。本物の年輪を感じさせてくれるすばらしい演技だった。

現在は,北森竜太のようにまっすぐに生きるのが非常に難しい時代である。教師が無条件に尊敬される時代ではなく,教師=クレーム処理担当者のような感じになってしまっている。そういう意味でこの作品で描かれた教育の世界は,非常に遠い時代のように感じてしまった。戦時中と現在とはどちらが教師にとって良いのだろうか?いつの時代も教師は大変なのだろうか?作品の魅力を堪能したと同時に,日本の教育と教師はどうあるべきか,について重く考えさせられる作品だった。(2007/10/21掲載)
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