ミュージカルおれたちは天使じゃない
イッツ・フォーリーズ公演(第269回例会)
●スタッフ
原作=矢代誠一,音楽=いずみたく,演出=藤田敏雄

●キャスト
福沢良一,坂口阿紀,大場秦正 他
2007年12月2日 野々市町文化会館

時代が変われば印象も変わる

「おれたちは天使じゃない」を金沢市民劇場で観るのは,今回が2回目である。記録を調べてみると,1992年に観ているので,もう15年も前のことになる。ただし,その時の印象は良くなかった。この年の金沢市民劇場賞を受賞したにも関わらず,私には「古臭いミュージカル」にしか思えなかった。

実は,今回もあまり期待していなかったのだが,予想に反してものすごく楽しめた。15年前の私が若かったせいもあるかもしれないが,作品自体が,今の時代にマッチしてきたのも理由の一つだと思う。15年前はバブル時代終焉期で,不必要に贅沢がもてはやされていたが,現在は違う。価値観はさらに多様化している中,映画「Always三丁目の夕陽」がヒットするなど平成以前の昭和時代へのノスタルジー志向が目立っている。

「おれたちは天使ではない」の世界は,どこか昭和の匂いがする。それがとても落ち着くのである。ドラマの流れ自体は,何回も何回も繰り返し上演されて来た作品だけあって,とてもスムーズでテンポ良く,非常に素直にドラマの流れに乗ることできた。

この「昭和の匂い」がどこから来るかと言えば,やはり,いずみたくさんの音楽である。一般的にミュージカルと言えば,甘くロマンティックで格好良い曲が聞き所となるが,そういう観点からいうと,演歌的な曲まで含めて,とても歌謡曲的なのである。それがとても良い味を出していた(余談ですが,途中に出てきた警官の雰囲気は,「8時だヨ全員集合」時代のカトちゃんの雰囲気そのままでしたね。これも昭和風味でした。)。

前回,観た時は最後の方に出てくる「今,生きる...」という曲のしつこさに乗れなかったのだが,今回は,そこまでのドラマの展開に浸っていたせいか,全く気にならなかった。ミュージカルの最初と最後に登場するファンタジー溢れる気分も素晴らしかった。

ドラマの親しみやすさと流れの良さは,キャラクターの分かりやすさと,シンプルな舞台転換にもよる。舞台装置自体はそれほど大掛かりではなく,ダンサー兼黒子の皆さんがスムーズに舞台を変えていくのだが,これが洒落た面白味を出していた。3人の脱走囚が鮮やかに天使に変わって行くシーンなどは,本当によく出来ており,音楽の清らかさと併せて,呆気に取られているだけだった。

登場人物では何と言ってもこの3人の脱走囚のキャラクター設定と演技が素晴らしかった。特に「おじいさんキャラ」がドラマ全体のコメディ部門を一手に引き受けており,大いに癒し,楽しませてくれた。これと反対の「リアル悪人キャラ」の角刈の囚人も良かった。この人がミュージカル?というミスマッチがとても楽しめたと同時に,時折,ドラマを引き締めてくれた。もう一人の若い囚人のキャラは2枚目的で,金沢出身の坂口さん(素晴らしい存在感がありました)と絡むことで,”正統的ミュージカル”の味も十分感じさせてくれた。

ドラマとしては,「殺人が出てくる話」ということで,普通に考えれば,怖いサスペンスになるはずなのだが,これが心温まるミュージカル・コメディになってしまうのもすごい。ストーリー後半は,「悪をもって悪を制す」話となる。殺人によって単純に問題を解決している辺りにちょっと引っかかる部分はあったのだが,コメディ・タッチで間接的処理していたこともあり,「悪人が図らずも良いことをしてしまった」というユーモアになっていた。

というわけで,ドラマの各パーツがきっちりと組み合わさって出来ている,とても洗練された作品だったと思う。改めて,時代が代われば,そして自分自身が変われば,見方も変わるものだと実感した次第である。(2008/03/01掲載)
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