オセロー
幹の会+リリック・プロデュース(金沢市民劇場265)
2007年4月11日 金沢市文化ホール
●スタッフ
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:小田島雄志 演出:平幹二朗
●キャスト
平幹二朗,三田和代,平岳大 他

見ていて疲れるオセロだった

これまで「冬物語」「リア王」と独特の濃い演技でシェイクスピアの世界を堪能させてくれた平幹二朗とリリック・プロデュースだが,今回の「オセロ」では少々違和感を感じた。「オセロ」という作品は,亡霊が出たり,妖精が出たりすることのない,現代の演劇にも通じるようなシリアスなドラマなのだが,どうも全体の雰囲気がしっくりと来なかった。

何がその原因なのかいろいろ考えてみたのだが,平岳大演じるイアーゴの方に原因があったような気がした。私が「オセロ」という作品に対して持っているイメージは,ヴェルディの歌劇「オテロ」のイメージである。オペラ版の場合,テノールが歌うオテロ(オセロ)は単純な英雄,バリトンが歌うイアーゴは知的な悪役というキャラクター設定が分かりやすく,すっとドラマに入っていけるのだが,今回の場合,そのバランスが不自然な気がした。

やはり岳大さんのイアーゴは若過ぎたのではないだろうか?まず,海千山千の幹二朗さんがこの若僧の計略に乗るのだろうか?という印象を持ってしまった。「オセロ」という作品は,「イアーゴ」とタイトルを付けても良いほど,イアーゴの果たす役割は大きい。今回の場合,幹二朗さんがイアーゴを演じる方が自然だったと思う。岳大さんについては,カッシオが似合っていた気がする。

そうなるとオセロは?この配役は難しい。貫禄の点からするとやはり幹二郎さんか?つまり,オセロもイアーゴも共に幹二郎さんということになってしまう。結局,私がイメージしていたのは,大物二人ががっぷり四つに組んだようなキャスティングだったのかもしれない。

それとやはり,セリフが多かった。今回は,音楽にフラメンコを取り入れ,ラテン的が気分を強く出していたが,それとセリフの多さとが相まって,非常にせわしなく感じた。シェイクスピアの作品は,どの作品も長ゼリフが目立つが,「オセロ」の場合,シリアスな部分が多いため,今回のようにせわしなく語られると,逃げ場が全くないような雰囲気になり,非常に疲れてしまった。

ただし,それぞれの俳優の演技は面白かった。幹二朗さんのオセロをはじめとして,役柄の年齢と役者の年齢との間にギャップがあったのだが,例えて言えば,人間国宝の女形の歌舞伎役者が若い娘を演じるような不思議な味があった。そのことは,デズデモーナ役の三田さんにも言えた。このベテラン2人によるオセロとデズデモーナのカップルの演技は,かなり人工的に作られた感じがあり,最初は違和感を感じたのだが,次第にこれが「芸の味」という感じになり,面白くなってきた。

幹二朗さんは,時々,大声をぐっと伸ばすような独特のセリフまわしをされていたが,この演技を見ながら,数年前のNHK大河ドラマ「義経」での後白河院の演技を思い出した。こういう曲者ぶりは,幹二朗さんならである。

イヤーゴ役の岳大さんは,前述のとおり畳み掛けるようなセリフの連続で,やや一本調子に感じたが,白塗りの顔がオセロと対照的で悪魔的な気分がよく出ていた。それと,冒頭のフラメンコは格好良かった。この妖艶な雰囲気は,他の人には真似できない岳大さんの素晴らしい持ち味だと感じた。

こうやって振り返ってみると,個性的な演技の応酬は悪くはなかったと思う。しかし,全体的な統一感がやや不足していた。幹二朗さんによる歌舞伎的な気分のある「オセロ」と岳大さんによるフラメンコ的な気分のある「イアーゴ」を1つの作品の中で両立させるというのはやはり難しかった気がした。
inserted by FC2 system