ルームサービス
テアトルエコー(金沢市民劇場266)
2007年5月29日 金沢市文化ホール
●スタッフ
ジョン・マレー,アレン・ボレッツ作,酒井洋子訳・演出
装置=倉本政典,照明=中川隆一,衣装=宮本宣子,ヘアメイク=アトリエレオパード,舞台監督=金子武男,制作=白川浩司,イラスト=ソリマチアキラ,デザイン=市川きよあき事務所,音響=小山田昭,

●キャスト
安原義人,永井寛孝,溝口敦,入江崇史,沖恂一郎,沢りつお,きっかわ佳代,浜野基彦,石津彩,瀬下和久,納谷悟朗,山下啓介,古屋道秋,熊倉一雄


さすがテアトルエコー
テアトル・エコーと言えば,翻訳ものの喜劇を専門に上演している存在感のある劇団だが,今回の「ルームサービス」は,その本領発揮といった公演だった。ホテルの一室を舞台にしたバックステージものということで,考えてみると「紙屋町さくらホテル」と同じような状況だったのだが,その”内容の無さ”は,まさに好対照だった。井上さんの作品も大変見ごたえがあったが,今回の「ルームサービス」は全く逆の意味で”さすが”といえるような作品だった。

次から次へと芸達者な役者たちがホテルの一室に出入りする作品ということで,三谷幸喜の映画「THE有頂天ホテル」と共通する味もあった。三谷さんの作品も堂々たるドタバタ喜劇だったが,今回の「ルームサービス」は,それをライブで行うということで,さらにスリリングなスピード感を持ったものになっていた。コメディの場合,下手をすると空虚な感じのまま勝手に話が進んでしまうのが怖いが,テアトルエコーの舞台には,常に現実を忘れさせてくれる楽天的な気分があり,充実した幸福感が漂っている。この点がいつも素晴らしいと思う。

ただし,今回の作品も,登場人物とその関係を一通り紹介するまでの前半はいくらか分かりにくい部分があった。後半の盛り上がりを準備するための仕込みの時間ということで,次々といろいろな肩書きを持った人物が登場してきた。テアトルエコーの場合,洋画の吹き替えをされている方が多いので,見た目よりは声の方が個性的なのも面白い。この中では沢りつおさんのワグナーの小悪人ぶりがドラマを盛り上げていた。それと女性二人も舞台全体に洋画的な雰囲気を加え,華やかさを出していた。

その部分が終わった後は,緻密に計算されたギャグの繰り返しが始まる。コメディというのは,繰り返すこと自体から生まれる面白み(「お達者で!」というセリフ。ドラマの展開と無関係に最初から最後まで人探しをしている集金人,など意味無く面白い)とそこから逸脱する意外性の面白みがあるが,その両方を感じることができた。いちばん見ごたえがあったのは,ホテル代の支払いをごまかすための数々の小細工的な演技である。病気になったり,死んだふりをしたり,トイレに隠れたあり...というのは非常に素朴なアイデアなのだが,その演技の中にどこか嬉々として演じているようなところがあり,全く嫌な感じがしなかった。抜け道や隠れ場が沢山ある大ホテルの建物ならではの設定もうまく使われており,文字通りドタバタとしたダイナミックさもあった。

そして,エンディングである。今回のエンディングは,まさに「水戸黄門」だった。テアトルエコーといえば,何といっても熊倉一雄さんである。熊倉さんもすでに80歳ということで,今回は現在の熊倉さんにぴったりの役柄が用意されていた。最後にこの熊倉さんが登場して,ややこしいことがすべて片付きし,今まで全く動きのなかった舞台がオーッという感じでグルっと動き,ショービジネスの気分たっぷりのフランク・シナトラの歌で締めるという流れは,コメディの王道という感じの堂々たるエンディングだった。

というわけで,繰り返しになるが「さすがテアトルエコー!」という舞台だった。
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