ミュージカル・ラヴ/サーティ

リトル・パイン・シアター
00/6/16 根上町総合文化会館
横山由和脚本;金子浩介音楽
岡嶋晋一/吉村圭子/寺尾美佐枝/前田陽一/梅谷美穂/知場雅彦/二見美由紀

リトルの公演に出かけるのは二回目である。再度見ようと思ったのは,一回目の公演(「この思い熱く」)を見てとても良い印象を持ったからである。この劇団は,作品のみならずポスター,ビラなどを含めた劇団全体としてアマチュアらしからぬ洗練された雰囲気と安定感を持っている。こういう「良い雰囲気」は,この劇団の強味である。

というわけで,「ラヴ/サーティ」の初日に出かけてみた。タントに行ってみると,やけに混雑している。なんと森首相の総決起集会との鉢合わせだった。入口で「選挙ですか?ミュージカルですか?」という変な質問をされて会場に入った。根上町ならではの経験をすることができた。

今回の作品も,前回同様,非常に楽しめる舞台だった。脚本が横山由和さんということで,かつての音楽座の作品と似たテイストを強く感じた。一生懸命に生きる人を応援するような健全さはアマチュア劇団が演ずるのにふさわしい。しかも,この劇団の素晴らしいところは,ストーリー展開よりも役者の芸の力で見せているところである。多くの登場人物それぞれに見せ場があり,それぞれのキャラクターをわかりやすく表現していたのも良かった。多くの人物が出てきた分,話はかなりごちゃごちゃしていたが,それを補う音楽が見事だった。解散してしまい,二度と生で見られないと思っていた音楽座の作品に再会できたようで(といっても「とってもゴースト」しか見たことはないのですが)とても嬉しかった。ただ,脚本については,「生まれ変わり」「幽体離脱」など少々怪しげな言葉が多いのが気になった(SFなので気にすることでもないとは思いますが...)。

役者さんでは,主役4人が立派に演じていた。特に,女性2人の印象が強く残った。実は,ドラマの最初の方は,グッとひきつけられるような感じではなかったのだが,背後霊が出てきたあたりから面白くなってきたような気がした。寺尾さんの声は非常に良く通る声で,どこに出しても通用するのではないかと思った。雰囲気もとても明るく,こういうミュージカルにはふさわしかった。もう一人の吉村さんの方は,見た目よりも太く迫力のある声質で,寺尾さんと良いコントラストを作っていた。高音の裏声が何となく苦しそうな感じだったが,非常に魅力のある歌い手だと思った。男性2人の方は,女性2人に比べるとちょっと弱い気がした。とはいえ,岡嶋さんの演技からは,人の良さや熱さがよく伝わってきたし,前田さんからはサポート役としての落着きを感じた。こうやってみると,この4人は,絶妙な取り合わせだった。

その他の役者さんも,ダンスシーンをはじめとしてサービス精神に溢れた,良い演技だった。ミュージカルを演じるにはダンス,歌唱の基本的な技術が必要だが,それをきちんと習得していることが,作品全体としての完成度の高さと劇団の層の厚さにつながっていると感じた。

ちょっと不満に思ったのは,タイトルである。タイトルだけ見ると「小粋な現代劇」という感じなのだが,いきなり時代劇の格好をした人が出てきてとまどった。「ラブ/千年」という感じだったような気がしたのですが,いかがでしょうか? (Little Pine Press,vol.37,2000.8に掲載,掲載分とは一部異なる部分があります。)
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