金沢市民劇場第224回例会 前進座・会誌の原稿
鳴神・狐山伏

今回は,満足度ナンバーワン劇団・前進座による歌舞伎の名作「鳴神」を中心とした舞台です。歌舞伎については予備知識がたくさんある方が楽しめます。筆者自身の勉強の意味も含めて詳細な解説をつけてみました。その他のいろいろな約束ごとについては,開演30分前!泥縄歌舞伎用語集をご覧下さい。

狐山伏

作 木下順二/ 演出 十島英明/ 美術 高木康夫/ 照明 寺田義雄/ 効果 小倉潔
配役 勘太 山崎竜之介/金剛院 山村邦次郎宝蔵院 寺田昌樹
『夕鶴』で有名な木下順ニの作品を狂言にしたものです。主人公は百姓が嫌で村を飛び出したならず者の勘太。神力坊という山伏になりすまし村人を騙して一儲けしようという魂胆で村に戻ってきます。勘太がいたずら心でホラ貝を吹くと、驚いた老狐・九郎右衛門が川の中に落ちてしまいます。村人をたぶらかそうとして村に入る勘太ですが、今度は老狐に化かされて川の中へ。これを見ていた山伏の金剛院と宝蔵院。勘太は山伏の修行をしてきたとしきりに話すが二人は「狐に化かされた奴が」と取り合わない。二人を信用させうようとやっとの思いで狐を捕まえた勘太だったが…。

歌舞伎十八番の内鳴 神 大薩摩連中

鳴神上人 嵐 圭史絶間姫 河原崎國太郎黒雲坊 山崎竜之介/白雲坊 山村邦次郎
後見 寺田昌樹/所化・後見 山崎杏佳・亀井栄克渡会元之/所化 高橋佑一郎・又野佐紋・栗沢学・菊池亮・和田慎一郎
『鳴神』の本名題は『鳴神不動北山桜』といいます。そのうちの三段目「毛抜」、四段目「鳴神」、五段目「不動」が独立して、それぞれ歌舞伎十八番となっています。つまり、市川団十郎家のお家芸の一つです。

『鳴神』の見どころは下のチャート式・早わかり鳴神を読んでいただくとして、その舞台背景を説明しましょう。


主人公の鳴神上人は朝廷に願い出た自分の望みが叶えられないのを恨んで、龍神を北山の滝壷に封じこめます。その結果、雨が一滴も降らず干ばつに見舞われます。それを解決するために朝廷が送りこんだ美女が雲の絶間姫です。つまり堅物の上人を色仕掛けと酒で欺こうという作戦です。その辺のやり取りが前半の見所です。

後半は、欺かれたと知った鳴神上人が怒りまくります。その怒りを表現する各種の見得が見所となります。前進座の鳴神は市川家の型とは違いますが、千回以上も上演をしている前進座歌舞伎の代表作です。元禄歌舞伎のおおらかさと様式美を堪能して下さい。
者紹介 

嵐 圭史・豊島屋
五世芳三郎の次男。六世芳三郎の弟。三拍子そろった立役。梅之助とともに劇団の中心。最新作は『蓮如』の主演。当り役は木下順二作『子午線の祀』の知盛。
河原崎國太郎・豊島屋
祖父は先代、父は六世芳三郎。外祖父が五世国太郎という前進座第三世代。大役に挑むたびに成長をみせる。踊りは藤間流名取。

チャート式 はやわかり鳴神

*嵐芳三郎さんの書かれた『役者の書置き』(岩波新書,1997年)をもとに鳴神の「みどころ」を表にまとめてみました。
【場面】1幕構成で場面転換はありません。舞台は正面に滝,上手に庵のある深山幽谷。笛太鼓の鳴物が風音や鳥の声を表現しています。

区 分

場 面

動作の説明,みどころ

幕開き

白雲坊・黒雲坊の掛け合い

花道から登場。この2人は芝居を進行させる大切な役。こういう役は「聞いたか聞いたか」で登場するので,聞いたか坊主と呼ばれます。

ミュージック・スタート

大薩摩連中の演奏

霞幕が上がると大薩摩連中が現れ,演奏を開始します。大薩摩は,通常の長唄よりも低音が充実しています。

主役登場

鳴神登場

御簾が上がると後向きに座り不動明王に祈る鳴神。

絶間姫登場

花道から鉦を打ちつつ赤姫の絶間姫が登場。念仏を唱える。

鳴神と2人の坊主のやり取り

不審な念仏が聞こえるので,2人の坊主がこわごわ様子を見に行く。絶間姫と対面。

絶間姫の長ゼリフ

絶間姫の物語

なぜここに来たかを語ります。もちろん,鳴神上人の気を引くための作り話です。上人はどんどん話に引かれていきます。和歌などがセリフの中に散りばめられています。

物語佳境に

「そのはず,そのはず」といちいち2人の坊主が合いの手を入れます。

主役2人のやりとり

上人,術中にはまるか?

身を乗り出して立ちかかった鳴神が壇上よりドドっと落ちる。鳴神,気を失う。絶間姫が口うつしで水を飲ませます。

上人,疑う

壇上に掛け上がり,ツケ入りで見得。

疑い解ける

滝壷に身を投げましょう,という捨て身の作戦で疑いを解く。絶間姫,鳴神の弟子になることに。

2人だけに

2人の坊主引っ込む

剃髪の道具を取りに行くため,2人の坊主は花道から退場。ここらで黒雲坊のサービスが見られそうです。

持病の癪が…

「あいた,あいた」と絶間姫が仮病を使います。単純な鳴神は騙され,介抱します。初めて女子の懐に手を入れた鳴神は「味なものが手にさわった」と自分の手を見つめます。「どれどれもう一度」「あれ〜お師匠さま」という有名な見せ場が続きます。

上人の破戒

「共に奈落に…ならぬか」「なるわいなぁ」とついに上人が破戒します。絶間姫のえびぞりが見られます。

攻守交代

上人に還俗しろと迫り,上人も納得。「名を替えろ」と言われた鳴神は果たして何という名に?

杯事の開始

このあたりの雰囲気はすっかり世話物風です。鳴神は下戸のくせにすすめられた杯をすっかり飲み干します。その時,ドロドロと大太鼓が鳴ります。鳴神の堕落の象徴です。

注連縄の秘密

「杯の中に蛇が」というセリフから,干ばつの原因が注連縄だということがわかってしまいます。上人は酔って眠ってしまいます。

絶間姫退場

龍神を解き放つ

その間に絶間姫はついに注連縄を切ります。とたんに天気が変わります。龍が昇天し,雷雨を表す激しい鳴物が鳴り,絶間姫はよろけながら花道を退場します

2人の坊主再登場

「お師匠様」と2人の坊主が再登場。絶間姫の正体と訪問の目的を告げる。

見得のデパート

荒れ狂う鳴神

カッと顔を挙げると鳴神の形相が一変しています。以下,荒事風の立ちまわりや怒りの表現である見得が続きます。これらの動作には「柱巻きの見得」「石投げの見得」「蓮華の見得」「不動の見得」「蛇籠」「ちどり」といった呼び名がそれぞれ付いています。

飛び六法

花道を勇壮な鳴物に乗り,飛び六法を踏んで退場。幕

inserted by FC2 system